自律的自我(autonomous ego)

自律的自我

自律的自我』は、”ハルトマン(Hartmann, H.)”により提唱された『自我心理学』の基礎となる理論です。

自律的自我とは、『自我』に関する理論であり、自我は現実に対して自主的な適応力や自律性を持ち、本能的な欲求からも外界現実からも独立した機能を保持していると考える立場を指します。

自我の概念ははじめ『精神分析』を創始した”フロイト(Freud, S.)”により提唱されました。
フロイトが提唱した自我は社会や現実に適応するために、快感原則に従い活動する『イド(エス)』や道徳原則に従い活動する『超自我』の働きを調整し、バランスを維持するように機能すると考えられています。
このように、フロイトは現実適応に向けてイド(エス)や超自我の対立や葛藤の調整を行うといった自我の防衛機能や、治療の『抵抗』を生み出す自我の働きに注目していました。

しかし、ハルトマンは、自我をイド(エス)や超自我の対立や葛藤とは無関係に形成される自律した機能をもつ存在であると考えました。
そしてこのような考えを『葛藤外の自我領域』と呼び、自律的自我の理論を生み出していきました。

自律的自我では、自我の自律的な機能について、知覚や記憶、思考、言語、運動性、現実検討などを想定しています。
また、個体と環境との適応を促す「適応機能」や「現実機能」(現実検討能力)、人格の連続性と統合性を維持する「統合機能」なども自律的な自我の機能として考えます、
このように自律的自我はイド(エス)の エネルギーを生産的なものにし、人格の統合と健康を支える機能を担っているとされています。

またハルトマンは自律的自我の形成や発達には、脳の中枢神経系の成熟や、個人と環境との相互作用が関係していると考え、『一次的自我自律性』と『二次的自我自律性』に分類し理解しようとしました。

一次的自我自律性とは人が生来的に持つ知覚や記憶、思考、言語、運動性、現実検討などの機能や能力のことを指します。
これらは、適切な養育環境であれば自ずと発達し自動的に働くものであると考えられています。

一方で、二次的自我自律性とは、人が生来的に持つ機能や能力ではなく、後天的な経験や学習によって獲得した機能や能力のことを指します。
特にイド(エス)や超自我、そして外界との対立や葛藤の解決によって獲得された自我の自律的機能を指します。
これらは、はじめは自我の『防衛機制』による行動であったものが、習慣化され身についた結果、自動的に働くようになるものと考えられています。

このように、ハルトマンが提唱した自律的自我は精神分析理論における自我の重要性を高め、その後の自我心理学の確立や発展に大きな影響を与えました。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

横川滋章・橋爪龍太郎(2015)『生い立ちと業績から学ぶ精神分析入門  22人のフロイトの後継者たち 』 乾 吉佑 (監修), 創元社.

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この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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