基底欠損(basic fault)

基底欠損

基底欠損』は、“バリント(Balint, M.)”によって提唱された概念になります。

基底欠損とは、患者の心理的な基盤に深刻な欠如がある状態(心の中に欠けているものがある状態)を指します
バリントは、このような基底欠損の状態にある患者には、従来の『精神分析』の適用は困難であり、治療の効果が得づらいと考えました。

バリントは、精神分析では対応できない患者の治療を行っていく中で、精神分析が適用できる患者と適用できない患者を識別していくことになりました。
それにより生み出されたのが基底欠損の概念になります。

バリントは、精神分析が適用できる患者を「エディプス領域」、適用が難しい患者を「基底欠損領域」として分類しました。

エディプス領域の患者は、強い『自我』を持ち、『徹底操作』が可能であるのに対し、基底欠損領域の患者はこの強い自我を持たないため、徹底操作が困難であり、従来の精神分析が効果を発揮しにくいと考えました。

また、バリントは基底欠損領域の患者の特徴として以下のようなものを想定しました。

  • エディプス領域での体験はすべて三者関係の中で生じるのに対し、基底欠損領域での体験はすべて二者関係の中で生じ、そこに第三の人は存在しないと考えました。
  • 基底欠損の領域にある患者に介入する他者や治療者(第三者)は、患者から際限ない要求や欲求を向けられ、強い緊張負荷を体験します。
    それにより、いつもの共感的、客観的、受容的な態度を維持してとることが困難となります。
  • 大きな不安それ自体が患者を突き動かす原動力となります。
  • 基底欠損は、心理的な基盤に欠けているものがある状態だと考えられるため、本質的に解消することや完全に治癒することは難しいと考えられます。
  • 成人の言語によるコミュニケーションが困難であることが多いとされています。

基底欠損の起源は、非常に早期の発達段階にまで遡るとされています。
乳幼児期において、子どもの求める生理的・心理的な欲求に対し、養育者から得られる保護や配慮が十分でないことや、先天的な疾患、育児における問題なども基底欠損の形成に影響すると考えました。

そのため、基底欠損の領域にある患者の治療としては、従来の精神分析が強調する『解釈』よりも、治療者と患者の間に築かれる関係そのものが重要視されます。
そして、バリントは、治療者が患者に対して干渉的、侵入的でない態度を継続することが、有効なアプローチであると考えました。

徹底操作

徹底操作とは、精神分析における治療技法の一つであり、患者が自身の『無意識』の欲望や葛藤を繰り返し表現(『直面化』)し、治療者がそれを注意深く観察し、理解や整理を行い、伝え返す(『明確化』)プロセスを指します。

このような過程を繰り返すことにより、患者は自分の無意識にある欲望や葛藤の意味を深く理解(『洞察』)し、自分の問題の根本的な原因に気づいていくことになります。
それにより新たな自己理解に繋がり、治療が進展していくと考えられています。

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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