ハル(Clark Leonard Hull)
ハル
"ハル(Hull, C. L.)"は、1884年から1952年に活躍したアメリカの心理学者です。
『新行動主義』の創始者の一人として知られています。
新行動主義は、これまでの『行動主義』が持つ限界を超え、新たな枠組みを確立していく過程の中で生み出されていきました。
”ワトソン(Watson, J. B.)”が提唱した行動主義では、人間の行動がどのように学習され、強化されていくのかについて、「刺激(S:Stimulus)」と「反応(R:Response)」の関係に注目し、理解しようとしました(『S-R理論』)。
そして、人間や動物の行動を、外部からの刺激に対する直接的な反応として捉えていました。
しかし、このような行動主義の立場(観察可能な外的な行動に限定して理解しようとする立場)は、内的な動機や欲求、感情といった見えない要因を無視していると考えられ、行動の全体像を理解するには不十分であると批判されてきました。
そこで、ハルをはじめとする新行動主義者たちは、従来のS-R理論を発展させ、『S-O-R理論』を提唱しました。
ここでの「O」とは「有機体(O:Organism)」を指します。
つまり、新行動主義とは、人間の行動は単に刺激(S)と反応(R)の関係だけでなく、刺激が有機体(O)にどう解釈され、その結果どのような反応が引き起こされるのかを重視する立場を指します。
これにより、行動や反応(R)は外的な刺激(S)だけでなく、個々の有機体(O)が持つ内的な状態や欲求、認知過程によっても影響されることが理解されるようになりました。
また、ハルは『動因低減説』と呼ばれる概念を提唱したことでも知られています。
動因とは、空腹や渇き、痛みなどの内的な不快感や欲求を指し、動因低減説ではこのような動因が行動のきっかけになると考えます。
つまり、動因が高まると、それを低減させるために行動が引き起こされます。
たとえば、空腹を感じたときに食事をすることで空腹感が和らぐように、動因が低減されるとその行動が強化され、再び同じ状況に置かれたときに同じ行動を取る可能性が高くなるという考え方です。
このようにハルは、行動は単に外部の刺激によってのみ引き起こされるのではなく、内的な欲求の影響も受ける可能性があると考えた点で、当時の行動主義に新たな視点を提供しました。
そしてハルの考えはその後の学習理論や認知心理学の発展にも大きな影響を与え、心理学の重要な基盤となっています。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。