来談者(クライエント)中心療法(client-centered therapy)

来談者(クライエント)中心療法

来談者(クライエント)中心療法』は、1940年代に"ロジャーズ(Rogers, C. R.)"により創始された『心理療法』になります。

来談者(クライエント)中心療法とは、クライエント自身が持つ成長の力を重視し、クライエントが自己選択を行えるように援助する方法になります

伝統的な心理療法(従来の『精神分析』や『行動療法』など)では治療は、治療者(セラピスト)の主導のもとに行われ、患者(クライエント)はその指示に従うといった形式で行われることが一般的でした。
しかし、ロジャーズは、そのような指示的な関係がクライエントの自己探求や成長を妨げると考え、伝統的な心理療法を批判しました。

そして、1942年からロジャーズは、人間の本質を善とする人間観をもとに、クライエントの自己成長や主体性、自己選択を援助する方法を打ち出していきます。

このアプローチでは、カウンセラーはクライエントに対して忠告や意見を与えず、クライエント自身が問題を解決する力を持っていると考えます。
このようなことから、ロジャーズの技法は『非指示的療法』と呼ばれました。

その後、ロジャーズの技法は『共感的理解』、『無条件の肯定的関心』、『自己一致』を中心とした来談者(クライエント)中心療法へと発展していきます。

ロジャーズ以前の心理療法では、セッションの内容はあまり記録されず、治療効果は主観的評価に頼っている場合が多くありました。
そのなかでロジャーズは、はじめて心理療法での会話を録音機器を用いて録音しました。
それにより、科学的に検証可能なデータの収集が出来るようになり、心理療法の効果の客観的な評価、詳細な分析が可能になりました。

そしてロジャーズは、このような実践と研究を通して、効果的な心理療法には、セラピストがクライエントに対し無条件の肯定的配慮を示すこと、共感的に理解する姿勢などが不可欠であることを発見しました。
このような発見に基づき提唱されたものが、1957年の『治療的な人格変化の必要十分条件』(必要十分条件)の論文になります。

この論文においてロジャーズは、セラピーにおいて、クライエントの人格に変化が起きるための必要にして十分な条件として以下の6つを挙げました。

  1. 2人の人間が心理的に接触を持っていること。
  2. クライエントが不一致の状態にあるか、傷つきやすい、または不安な状態にあること。
  3. セラピストが2人の間で一致し、統合されていること(自己一致)。
  4. セラピストがクライエントに対して無条件の肯定的配慮を持っていること(無条件の肯定的関心)。
  5. セラピストは、クライエントの「内的照合枠」を感情移入的に理解するという経験をしており、その経験をクライエントに伝達するよう努めていること(共感的理解)。
  6. クライエントが上記の4.と5.を最小限度は知覚していること。
内的照合枠

内的照合枠とは、個人が意識する可能性のある感覚、知覚、記憶などのあらゆる領域の経験を指します。

たとえば、好きな音楽を聴いたときにその音楽が思い出させる特別な出来事や、ある匂いを嗅いだときにその匂いに関連する思い出がよみがえることなどです。
これらの経験が集まって、私たちの内的照合枠を作ります。

そのため、感情移入的な理解とは、他者の内的照合枠を正確に知覚することを意味します。

つまり、他の人がどのように感じているか、何を経験しているかを共感的に感じ取ることを意味します。
たとえば、友達が悲しいとき、その友達の気持ちや経験を理解し、共感することです。


また、ロジャースはこれらのうち、3.の自己一致、4.の無条件の肯定的関心、5.の共感的理解の3つをセラピストに関わる中核条件であると考え、重視しました。

また、ロジャーズはセラピストがクライエントと効果的な対話を行うために必要なスキルとして様々な応答技法を提唱しました。

来談者(クライエント)中心療法で用いられる応答技法には以下のようなものがあります。

  • 感情の受容
    • クライエントの感情を受け入れ、共感的に応答しながら聴くこと。
  • 感情の反映
    • クライエントの話に含まれた感情をセラピストが映し出し、伝え返すこと。
  • 繰り返し
    • クライエントの言葉をそのまま繰り返すこと。
  • 感情の明瞭化
    • クライエントの漠然とした感情を明らかにすること。
  • 承認・再保証
    • 情緒的な支援や承認、強化を与えること。
  • 非指示的リード
    • クライエントに更なる説明を求める際、「もう少し話してくれませんか」といったアプローチを取ること。
  • フィードバック
    • クライエントの行動について、セラピストがどのように感じたか見解を伝えること。
  • 自己開示
    • セラピストが自分の感情や考えを適切にクライエントに伝えること。

このように、来談者(クライエント)中心療法は、セラピストとクライエントとの関係を深めることを通じて、クライエントの自己理解や成長を支援していく心理療法になります。

自己一致(genuineness)

自己一致とは、自己概念と経験が一致している状態を指します。
「純粋性」や「真実」と呼ばれる場合もあります。

つまり、自分がどういう人間であるのかということと、現実での自分の行動や思考、態度が一致していることを指します。

自己一致の状態は、自分に違和感がなく、深い自己分析を通して洞察した状態を表しています。

無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)

無条件の肯定的関心とは、相手がどんな状況や感情を抱えていても、そのままの存在を受け入れ、尊重しようとする態度を指します。
「無条件の肯定的配慮」や「受容」と呼ばれる場合もあります。

セラピストがクライエントに対して批判や評価をせず、ありのままを温かく見守ることで、クライエントが自分を素直に表現しやすくなります。

共感的理解(empathic understanding)

共感的理解とは、相手の感じていることや考えを、まるで自分のことのように深く理解し、感じ取ろうとする姿勢のことを指します。
「感情移入的理解」と呼ばれる場合もあります。

セラピストが、クライエントの視点に立ち、相手がどんなふうに世界を感じ、経験しているかを共感的に感じ取ろうとする姿勢を意味します。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

動画での解説はこちら

この記事を書いた人

上岡晶の画像

臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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