コンテインメント(containment)
コンテインメント
『コンテインメント』は、”ビオン(Bion, W. R.)”により提唱された理論になります。
コンテインメントとは、個人が自分一人では耐えられない強い衝動や感情を持った際に、それをどのように処理していくかを説明する理論になります。
特にコンテインメントでは、人は自身には耐えがたい不安や感情を他者に預け、その相手がそれを整理し、安心できる形で返してくれることで感情を少しずつ処理できるようになると考えます。
ビオンは、『対象関係論』を創始した“クライン(Klein, M.)”の流れを汲む精神分析家になります。
彼は、『精神分析』の実践の中で、人の心の健全な発達や『精神病』について理解を深めていきます。
そのなかで生み出されたのがコンテインメントになります。
ビオンは、特に乳幼児と養育者(主に母親)の関係に注目し、乳幼児の心の状態とその発達における養育者の役割について明らかにしようとしました。
乳幼児は、自我が未熟なため、自分の中に生じる強い衝動や感情(『ベータ要素』)を、自分の力だけでは処理できません。
そのため、乳幼児は、自分の中の衝動や感情を『分裂』させて、養育者の中へ『投影』する(投げ入れる)ことで、それを処理してもらおうとします。
養育者は、乳幼児から投影された(預けられた)衝動や感情を包み込み(コンテインし)、その衝動や感情がどのようなものかを理解します(『コンテインド』)。
そして、それらを乳幼児が耐えられる形(『アルファ要素』)に修正し、乳幼児に返していきます。
この過程により、乳幼児は自分の中に生じる強い衝動や感情に対して、情緒的な耐性を持つことが出来るようになり、また、衝動や感情を和らげる養育者の機能を取り入れ、健康なパーソナリティを形作っていきます。
このような役割(『アルファ機能』)を果たす養育者のような存在のことを『コンテイナー』と呼びます。
しかし一方で、乳幼児が生来的に強い羨望や憎悪を抱えやすい素因があったり、養育者のコンテインする能力が弱く、コンテイナーとしての機能が十分果たせない場合、乳幼児は『名もなき恐怖(nameless dread)』(言葉にできない漠然とした恐怖)を抱え込むようになります。
ビオンは、このような状況が人の心の不調や精神病をもたらす一因であると考えました。
また、コンテインメントは、『心理療法』の実践にも大きく影響を与えました。
心理療法の場面では、養育者(コンテイナー)の役割を治療者(セラピスト)が担うと考えます。
つまり、セラピストは、患者(クライエント)から不安や混乱した感情を預かり、受け止めて整理し、クライエントの理解しやすい形でクライエントに返すという役割を果たします。
この過程を通じて、クライエントは自分の感情を少しずつ処理する能力を身につけ、感情の混乱から解放されていきます。
このように、コンテインメントは心理療法の基盤としても広く用いられており、重要な理論の一つとされています。
- コンテイナー(container)
コンテイナーとは、他者の感情や不安を受け止め、整理して返す役割を持つ存在のことを指します。
特に、母親などの養育者がこの役割を担い、乳幼児が自分の感情を処理する手助けをします。
また、心理療法においては、セラピストがこの役割を担い、クライエントが自分の感情を処理する手伝いを行います。- コンテインド(contained)
コンテインドとは、コンテイナーによって包み込まれた感情や不安を指します。
つまり、コンテイナーにより自分の預けた感情や不安が包み込まれ、適切に整理されている状態のことを指します。
- ベータ要素
ベータ要素とは、未整理のままある生の感覚や耐えがたい不安を指します。
これらは感情として認識されず、混乱した状態にあります。アルファ機能により、ベータ要素がアルファ要素に変換されることで、個人は自分の感情を少しずつ処理していくことが出来るようになるとされています。
- アルファ要素
アルファ要素は、未整理のままある生の感覚や耐えがたい不安(ベータ要素)が、コンテイナーのアルファ機能により、自身の受け取りやすい形に変換されたもののことを指します。
例えば、強い不安を感じているとき、その感情は「どうしてこんなに不安なのか」と理解できないことがあります(ベータ要素)。
しかし、誰かがその不安を聞いてくれたり共感してくれると、少しずつ整理されていきます(アルファ機能)。
その結果、不安は「私はこのことが心配なんだ」と具体的な思いに変わります。このように、未整理の感情がわかりやすく変わったものがアルファ要素になります。
- アルファ機能
アルファ機能とは、未整理のままある生の感覚や耐えがたい不安(ベータ要素)を、個人が受け止められる形(アルファ要素)に変換する、コンテイナーの機能のことを指します。
アルファ―機能により、個人は混乱した感情を落ち着かせ、少しずつ感情を処理できるようになります。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.
横川滋章・橋爪龍太郎(2015)『生い立ちと業績から学ぶ精神分析入門 22人のフロイトの後継者たち 』 乾 吉佑 (監修), 創元社.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。