精神障害の診断と統計マニュアル(DSM:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)
精神障害の診断と統計マニュアル(DSM:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)
『精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)』とは、『精神障害』の分類と診断を行うためのマニュアルになります。
1952年に、アメリカ精神医学会(APA:American Psychological Association)により、初めての版が発行され、その後数回の改訂を重ね現在に至ります。
1900年代の初頭まで、精神障害の定義や診断基準は不明確であり、そのため、それぞれの医師の主観的な判断で診断や治療が行われていました。
その結果、同じ症状を持つ患者でも、医師により、診断にばらつきが生じてしまい、適切な治療や一貫した治療を提供することが困難でした。
また、当時の精神医学は身体的な病気に比べて科学的な根拠に基づくものが少なく、精神的な健康問題を診断するための信頼できる基準がありませんでした。
このような状況の中、アメリカ精神医学会(APA)は、精神障害をより客観的かつ科学的に診断できるための標準化された診断基準を策定する必要性に迫られました。
それにより生み出されたのが、精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)になります。
DSMは、医師や研究者が共通の基準を用いて診断を行い、適切な治療を提供するために作られました。
これにより、精神障害の診断に一貫性が生まれ、患者がより効果的な治療を受けられるようになりました。
DSMは、精神医学の進歩や社会的な変化、新たな科学的知見を反映する形で複数回にわかり改定が重ねられてきました。
特に1980年に改定されたDSM-Ⅲでは、これまで抽象的であった症状の定義が明確化され、具体的な診断基準が定められました。
この改定により、精神障害に対する理解が深まり、診断の精度の向上に繋がったとされています。
また、2013年に改定されたDSM-Ⅴでは、これまでのDSMの成果を踏まえ、新たな知見が反映されています。
この改定では、いくつかの疾患が統合され、新たな分類が生まれました。
例えば、これまで別々に分類されていた『自閉症(自閉性障害)』や『アスペルガー障害』、『広汎性発達障害(PDD:pervasive developmental disorder)』が、『自閉症スペクトラム障害(ASD:autism spectrum disorder)』として統合されました。
これは、自閉症の理解が進み、これらの症状が一つの連続的なスペクトラム(連続体)として捉えられるようになったためです。
このように、DSMは、精神障害の診断と治療において非常に重要な役割を果たしており、精神障害の理解が進む中で、その内容は進化し続けています。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。