環境閾値説(environmental threshold theory)

環境閾値説

環境閾値説』は、”ジェンセン(Jensen, A. R.)”により提唱された概念になります。

環境閾値説とは、遺伝的な特性や能力が発現するかどうかは、環境条件がその特性ごとに決まっている基準値(閾値)を越えるか どうかによって左右されると考える立場を指します。

心理学では長い間、人間の特性や能力は遺伝子で決まるものなのか、それとも環境によって決まるものなのかが議論されてきました。

遺伝が優位であると考える立場として、”ゲゼル(Gesell, A.)”の『成熟優位説』があります。
その一方、環境が優位であるとする考え方として”ワトソン(Watson, J. B.)”の『環境優位説』が知られています。
また、人間の特性や能力は遺伝と環境の総和(足し算)で決まると考える立場として”シュテルン(Stern, W.)”の『輻輳説』が唱えられてきました。

しかし、ジェンセンは人間の特性や能力は遺伝と環境の単なる足し算ではなく、遺伝と環境が相互に作用し合うことで形成されていくと考え、『相互作用説』を提唱しました。
そして、各特性(例えば、身長、知能、学業成績、絶対音感など)の発現には異なる環境条件が影響していると考え、環境閾値説を提唱しました。

たとえば、身長の発達においては栄養や健康状態といった環境要因も影響しますが、遺伝的要因がよりその発現に大きく影響しています。
一方で、知能の発達や学業成績の向上には、遺伝的要因に加え、家庭環境や教育の質、学校の教育体制や教師のサポートといった環境的要因も重要になってきます。
絶対音感については、遺伝的要因の影響もありますが、音楽教育や音楽的な環境があるといった環境要因がよりその発現に大きな影響を与えます。

このようにジェンセンは、人間の特性や能力は遺伝と環境の相互作用により形成されていくと考えました(相互作用説)。
そして、個々の特性や能力の発現にどのように環境が影響しているかを理解する上で重要な枠組みを提供しました(環境閾値説)。

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森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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