偽りの自己(false self)

偽りの自己

偽りの自己』は、”ウィニコット(Winnicott, D. W.)”により提唱された概念になります。

偽りの自己とは、早期の環境側の失敗に対する防衛反応として生じる、分裂した自己のことを指します。
ウィニコットは、偽りの自己を生きる人々は、社会的には一応の適応を見せながらも、内面には漠然とした不全感や空虚感を抱いてることが多く、現実感を持てないことが多いと考えました。

ウィニコットは、偽りの自己が生み出される過程について、乳幼児と養育者(主に母親)との関係に注目し理解しようとしました(『情緒発達理論』)。

生まれたばかりの赤ん坊は、自分や他者の区別がつかず、コントロールもできないため、欲求や感情をそのまま表出します(『原初的な無慈悲さ』)。
このような乳幼児の原初的な無慈悲さに養育者が耐えられず、また、抱えることや生き残ることが出来ず、仕返しや報復をしてしまう場合、乳幼児は『想像を絶する不安』を体験することになり、その防衛として偽りの自己が形作られていくと考えました。

つまり、養育者が子どものニーズに気づことができず、適切に対応できない場合、子どもは生き残るために、自らの欲求や感情を抑え、環境側(養育者)に迎合(合わせ)せざるを得なくなります。
それにより、子どもの自発性を失われていき、一見適応的に見える偽りの自己が形作られていくと考えました。

その一方で、乳幼児の原初的な無慈悲さを、養育者が『抱えること』ができ、報復せずに『生き残ること』が出来た場合には、乳幼児の中に愛着や安心感、信頼感が芽生えていき、自立や『本当の自己』に向けての基盤が出来上がっていくと考えました。

井原成男(2014)「Winnicottにおける生き残ることと対象の使用の逆説」10, p181-193, 人文科学研究.

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

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この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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