家族療法(family therapy)
家族療法
『家族療法』は、1950年代に"グレゴリー・ベイトソン(Bateson, G.)"らのグループにより創始された『心理療法』になります。
家族療法とは、家族全体を「システム」として捉え、そこに生じる相互作用や関係性に注目しながら、歪みや問題を解決し、改善することを目的とした心理療法です。
1950年代より以前の心理療法では、個人を治療の焦点とし、家族はあくまで背景として扱われることが一般的でした。
”フロイト(Freud, S.)”の創始した『精神分析』においても、家族(特に親子関係)は個人の心の発達において重要な役割を果たすとされていましたが、治療そのものは主に個人を対象に行われていました。
家族療法が独自の分野として形成されるきっかけとなったのは、1940年代の"ベル(Bell, J.)"による「合同面接」です。
ベルは、問題を抱える個人(『IP: Identified Patient』)だけでなく、家族全員がセラピーに参加することで、家族内の相互作用を直接観察し、問題の本質を深く理解することが可能になると考えました。
さらに、1950年代になると、対人関係や家族システムに焦点を当てた研究が進み、多くの新しい理論や技法が発展していきました。
家族療法の中心的な考え方は、家族をまとまりを持ったシステムとして捉えるという点にあります。
システムとは、人々が日常的な相互作用を通じて築く関係性の枠組みを指します。
この視点では、家族内の問題は個人の特性や行動だけでなく、家族全体の相互作用から生まれるものと考えられます。
したがって、セラピストは家族全員が同席するセッションを行い、発言内容や反応、座席の配置やその変化など、多面的な情報をもとに家族のパターンを分析します。
そして、家族全体をクライエントとして扱い、そのシステムに働きかけることで、家族全体の関係性を改善していきます。
家族療法では、『円環的因果律』という視点が用いられます。
これは、「原因が結果を生む」という直線的な因果関係(「直線的因果律」)ではなく、「原因と結果が相互に影響し合う」という考え方です。
たとえば、子どもの問題行動が親のストレスを増幅させ、親の反応が子どもの行動をさらに悪化させるといった相互作用の悪循環が挙げられます。
このような円環的な関係性を理解し、介入することで、問題を解決に導くことが目指されます。
家族療法にはさまざまなアプローチがあり、代表的なものとして、『コミュニケーション学派』、『構造学派』、『戦略学派』、『物語(ナラティヴ)学派』、『ミラノ学派』などが挙げられます。
これらのアプローチはそれぞれ独自の理論と技法を持ちながらも、共通して家族全体の相互作用を重視します。
また、近年ではこれらを統合的に活用する動きも見られています。
家族療法で用いられる技法としては、『ジョイニング』(セラピストが家族との信頼関係を築く技法)、『リフレーミング』(問題の意味付けを変える技法)、『エナクトメント(実演化)』(家族の相互作用を実際に再現してもらう技法)、『円環的質問法』(相互作用を掘り下げるための質問法)、『外在化』(問題を個人から切り離して考える技法)などがあります。
これらの技法を用いることで、家族内の関係の歪みを改善し、健康的な相互作用を促進することが可能になります。
また、家族内で生じる問題は、必ずしも否定的なものだけでなく、むしろ、家族のライフサイクルにおける移行期(例:子どもの独立、結婚、親の介護など)の課題を乗り越えるための跳躍台として肯定的な役割を果たす場合もあります。
そのため、家族療法は、単に問題を解決するだけでなく、家族がより良い関係性を築き、ライフサイクルの移行期における課題を乗り越える力を育むことを目指しています。
このことから、家族療法は心理療法だけでなく教育や福祉など幅広い分野で活用されています。
- ジョイニング
ジョイニングとは、セラピストが家族の一員のように信頼関係を築き、家族内に溶け込むことで、家族が安心して話せる雰囲気を作る技法です。
例えば、 家族全員が安心感を持てように、セラピストが家族の中に参加し、溶け込もうとすることを指します。
- リフレーミング
リフレーミングとは、問題の見方や意味付けを変えることで、新しい視点を提供する技法です。
例えば、子どもの「わがまま」を「自己主張ができる力」と再定義し、家族の視点を変えることで新しい理解を促します。
- エナクトメント(実演化)
エナクトメント(実演化)とは、家族内の相互作用をセッション中に実際に再現してもらい、セラピストが観察や介入を行う技法です。
例えば、 家族の間で日常的に起きる会話のやり取りをその場で再現してもらい、コミュニケーションの改善点を探ります。
- 円環的質問法
円環的質問法とは、家族メンバー同士の視点を引き出し、相互の関係性や影響を明確にする質問技法です。
例えば、 「お母さんは、お父さんの行動が子どもにどんな影響を与えていると思いますか?」と尋ねることで、家族の連鎖的な影響を認識してもらいます。
- 外在化
外在化とは、問題を個人の特性ではなく、外部にあるものとして捉えることで、家族全員で協力して問題に向き合えるようにする技法です。
例えば、 「あなたが怒りっぽい」のではなく、「家族の間にある怒りという問題にみんなが影響を受けている」と話すことで、問題を共同で解決する意識を持てるようにします。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
中村伸一(2017)「家族療法のいくつかの考え方」29(1), p38-48, 家族社会学研究
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\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。