オールポート(Gordon Willard Allport)
オールポート
"オールポート(Allport, G. W.)"は、1897年から1967年に活躍したアメリカ人の心理学者です。
『パーソナリティ(性格)心理学』において多大な功績を残した人物であり、『特性論』の提唱者としても知られています。
1897年、アメリカのインディアナ州で生まれたオールポートは、1922年にハーバード大学で心理学の博士号を取得しました。
その後ヨーロッパに渡り、『ゲシュタルト心理学』や『精神分析』、さらには社会学的な視点を学びました。
この多様な経験が、彼の心理学的アプローチに豊かな視野をもたらしました。
帰国後はハーバード大学で教鞭をとりながら、特性論の基盤となる研究を進めました。
当時、心理学の世界では、”フロイト(Freud, S.)”の精神分析や『行動主義心理学』が主流でしたが、これらはそれぞれ特定の視点に偏っているという課題を抱えていました。
フロイトの理論は『無意識』や病理的な側面に焦点を当て、行動主義心理学は観察可能な「行動」に重点を置いていました。
しかし、オールポートはこれらが人間のパーソナリティの複雑さを捉えきれていないと考えました。
彼は、意識的で健全な人間の特性や動機を科学的に探求することを目指し、特性論を生み出しました。
特性論とは、人の性格を基本的な要素(特性)に分けて、それぞれの特性がどのくらい強いかを測ることで、その人の性格を理解しようとする考え方になります。
ここでの特性とは、多くの状況で人の行動や反応に一貫性をもたらす反応傾向を指します。
たとえば、ある人がいつどんな状況でも「正直」であるなら、それはその人の「正直」という特性がその行動に影響を与えていると考えられます。
このように特性は、日常生活で使われる「内向的」「社交的」「潔癖」などの性格的な特徴を科学的に説明するための概念です。
これまでのパーソナリティに関する理解は、『類型論』(人の性格をいくつかの「型」に分け、大まかに分類しようとする考え方)が主流でしたが、性格を単純なカテゴリーに分けるこのアプローチには限界がありました。
例えば、"ヒポクラテス(Hippocrates)"の『四体液説』や”ユング(Jung、C. G.)”の『性格類型論(タイプ論)』は、人間の複雑で多様な性格を十分に捉えられないという批判を受けていました。
そのようなことから、オールポートは、性格を単純に分類するのではなく、各個人の独自性を詳細に理解することを重視し、特性論を提唱することになりました。
オールポートの提唱した特性論では特性を2つの種類に分類します。
一つは『個人特性』、もう一つは『共通特性』です。
- 個人特性
- 特定の個人に固有の性格的特徴を指します。
たとえば、ある人が「非常に慎重で計画的」であるなら、それがその人の個人特性に当たります。
- 特定の個人に固有の性格的特徴を指します。
- 共通特性
- 共通特性は、多くの人に共通して見られる性格的な特徴です。
たとえば、「外向的」「内向的」といった分類がこれに当たります。これらは、個人間の比較やグループ全体の傾向を研究する際に役立つものです。
- 共通特性は、多くの人に共通して見られる性格的な特徴です。
この分類により、オールポートは個々の独自性と集団の共通性を両方とも理解することが可能になりました。
ただ、オールポートが各個人のパーソナリティーの理解において個人特性を重視していたのに対し、後の研究では共通特性が重視されるようになりました。
これは、共通特性の方が多くの人に当てはまり、実験やデータ分析に適していたためです。
また、オールポートの特性論は、現代のパーソナリティ心理学、特に『ビッグファイブ』理論などの性格特性研究に多大な影響を与えました。
ビッグファイブは、人間の性格を「外向性」「協調性」「誠実性」「神経症傾向」「開放性」(『OCEANモデル』)の5つの主要な特性に基づいて分析するもので、オールポートの研究を基盤に発展したものです。
このように、オールポートは、パーソナリティの理解に新しい視点を提供し、特性論を通じて人間の性格を科学的に分析する方法を確立しました。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。