アイゼンク(Hans Jurgen Eysenck)
アイゼンク
"アイゼンク(Eysenck, H. J.)"は、1916年から1997年まで活躍したドイツ人の心理学者です。
『性格心理学』と『行動療法』の分野で多大な功績を残したことで知られています。
アイゼンクは、1916年にドイツのベルリンで生まれ、ナチスの影響により、1934年にイギリスに移住します。
その後、ロンドン大学で心理学を専攻し、1942年から心理学者として活動し始めます。
心理学におけるアイゼンクの重要な貢献の一つは、行動療法の分野です。
アイゼンクは心理学を科学的な学問として発展させることを目指し、当時主流だった”フロイト(Freud, S.)”派の『精神分析』に批判的な立場をとりました。
精神分析が観察や測定が難しい心の働きを扱っていたのに対し、アイゼンクは観察可能な「行動」に注目し、『学習理論』を基礎にした治療法を重視しました。
そして、”パブロフ(Pavlov, T. P)"の『レスポンデント(古典的)条件付け』や”スキナー(Skinner, B. F.)”の『オペラント(道具的)条件付け』を『心理療法』に応用し、それを発展させることで行動療法の確立に大きく貢献しました。
さらに、行動療法と精神分析の有効性を比較する研究を行うことで、行動療法が治療において有効であることを明らかにしました。
また、心理学におけるアイゼンクのもう一つの重要な貢献は、性格特性に関する研究です。
彼は、性格をより科学的に理解するために『特性論』を提唱しました。
特性論とは、人の性格を基本的な要素(特性)に分けて、それぞれの特性がどのくらい強いかを測ることで、その人の性格を理解しようとする考え方です。
彼は、従来の『類型論』(人の性格をいくつかの「型」に分け、大まかに分類しようとする考え方)では人の性格の多様性や個々の違いを十分に説明できないと考え、性格を複数の特性の組み合わせとして捉えることで、個人の行動や感情の傾向をより正確に測定し、理解しようとしました。
アイゼンクの提唱した特性論では、性格は一つの型(類型論)ではなく、複数の特性の組み合わせによって形成されると考えます。
例えば、社交的で活動的な「外向性」や、ストレスに敏感な「神経症傾向」などがその代表です。
アイゼンクの特性論では、人の性格を3つの主要な次元で説明しようとします。
- 「外向性(Extraversion)」と「内向性(Introversion)」
- 人がどれだけ社交的で刺激を求めるか、または内向的で自己反省的かを示します。
- 「神経症傾向(Neuroticism)」
- 情緒がどれほど安定しているかや、不安やストレスにどのように反応するかを測ります。
- 「精神病傾向(Psychoticism)」
- 攻撃性や社会規範からの逸脱、非協調性を示します。
これらの特性は、アイゼンクが開発した『モーズレイ性格検査(MPI:Maudsley Personality Inventory)』や、後に改良された『アイゼンク性格検査(EPQ:Eysenck Personality Questionnaire)』を通じて測定可能です。
これにより、性格の研究が科学的に進められる基盤が築かれました。
アイゼンクはまた、性格の構造を理解するために『4層構造モデル』を提案しました。
このモデルでは、特性論と類型論を統合的に捉えており、性格を次の4つの水準に分けて理解しようとします。
- 「特殊反応水準」
- 特定の状況における個別の行動を指します。
- 「習慣反応水準」
- 繰り返し観察される行動パターンの集まりを指します。
- 「特性水準」
- 性格の基盤となる因子や特徴を指します。
- 「類型水準」
- これらの特性を基にした性格の大まかな分類を指します。
このように、アイゼンクの4層構造モデルでは、具体的な行動や反応(特殊反応水準)から繰り返し観察される行動パターン(習慣反応水準)、性格を構成する基本的な特性(特性水準)、そしてそれらの特性を統合した大まかな性格タイプ(類型水準)へと段階的に性格を捉えます。
このモデルにより、特性論を用いて性格の微細な違いを捉えつつ、類型論によってそれらの特性を組み合わせて大まかな性格の分類を行うという、多面的で統合的な性格理解が可能になりました。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。