コフート(Heinz Kohut)
コフート
”コフート(Kohut, H.)”は、1938年から1981年にアメリカで活躍したオーストリア人の精神科医です。
『自己心理学』の創始者として知られています。
コフートは、1938年にオーストリアのウィーンで生まれます。
両親の仲は良く裕福な家庭で育ちます。
しかし、1941年に第一次世界大戦がはじまると、父親が出征する事となります。
それに伴い、母親との関係は複雑になり、母親からの十分な共感が得られなくなっていきます。
このような経験からコフートは、『自己愛』や『共感』へ関心を持つようになったと考えられています。
ウィーン大学に入り、医学を学びますが、ナチスの台頭により、1940年にアメリカのシカゴに移住します。
その後、精神科医となり、『精神分析』の訓練を受けながらキャリアを築き、1964年から1965年にかけてアメリカ精神分析学会の会長、1965には国際精神分析学会の副会長を務めることになります。
コフートは伝統的な精神分析の訓練を受け、『自我心理学』の立場からを治療を行っていました。
しかし、『自己愛性パーソナリティー障害』の治療の実践と研究を行っていく中で、新しい視点を生み出していくことになります。
それにより創始されたのが自己心理学になります。
自己心理学とは、『自己』の概念を中心に人の心を捉え、『精神障害』の理解や治療を行おうとする立場を指します。
コフートは、自己について個人の心理的宇宙の中心と捉え、分割できない一つの存在として捉えました。
そしてそのような自己は、幼少期に養育者や他者から十分に共感されることで健全に発達し、それが人の心理的な安定や他者との良好な関係を築く基盤となると考えました。
その一方で、幼少期に十分な共感や承認が得られない場合、健全な自己が形成されず、心理的な不安定さや、場合によっては自己愛性パーソナリティー障害の問題に発展していく可能性があると考えました。
そのため、コフートは、自己愛性パーソナリティー障害の治療を行うためには、共感的な理解を示すことが重要であると考えました。
治療者が共感的に接することで、患者は欠けていた自己の発達を補う体験が得られ、健全な自己が形成されていくとされています。
このようにコフートは、自己の概念を中心に、人の心や自己愛性パーソナリティー障害を捉え、自己心理学を作り上げていきます。
また、自己心理学の中でコフートは、『自己対象』や『自己対象転移』、自己愛などの理論を生み出し、自己がどうように形成され、健全な発達を遂げていくのかの説明を試みました。
このことからコフートの理論は、自己愛性パーソナリティー障害の治療だけでなく、自己の形成や、人間の心理的な成長に関する理解を深め、現代の『心理療法』においても重要な基盤となっています。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.
横川滋章・橋爪龍太郎(2015)『生い立ちと業績から学ぶ精神分析入門 22人のフロイトの後継者たち 』 乾 吉佑 (監修), 創元社.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。