個性化過程(individuation progress)
個性化過程
『個性化過程』は、”ユング(Jung、C. G.)”により生み出された理論であり、『分析心理学』に組み込まれています。
個性化過程とは、個人の人格の発達や心理的成熟をその目標とする人間の生涯にわたる心の発達の過程を表します。
『精神分析』では、人の心について『意識』と『無意識』を想定し、意識の中心にある『自我』の存在を重視しました。
精神分析が想定する自我は、社会や現実に適応するために、快感原則に従い活動する『イド(エス)』や道徳原則に従い活動する『超自我』の働きを調整し、バランスを維持するように機能すると考えられています。
その一方で、ユングは意識の領域と無意識の領域をともに包括した心全体の中心とし て『自己』という表現を導入しました。
分析心理学が想定する自己は、意識領域の拡大や無意識との統合に向けて働き、より高い次元へと個人の人格を発達させていく機能を持ちます。
このように、自己はその人本来の個性に従って成長していくといった性質を持つとされいます。
そして、ユングはこの『自己実現』のプロセスを個性化過程と呼び重視しました。
また、ユングは人の一生を太陽の運行に例え、人生の前半と後半とでは目標が異なると考えました。
人生の前半は、様々なものを獲得していく段階ですが、人生の後半は獲得していたものを失っていく過程になります。
そのため、人生の前半と後半では、人生に対する態度の変容が求められることになり、個人は外的な世界の充実から、内的な世界の充実へと向かっていくことになると考えました。
人生の前半での目標の一つは、成人としての『自我』の確立になります。
自我とは、自分であるという意識であり、自らの行動を決定する一貫した主体性のことを指します。
個人が自らの欲望を実現させつつ、現実に適応し、社会的な基盤を築いていく過程の中で自我が確立されていきます。
それに対して、人生の後半の目標は、自己の統合が中心となります。
自らの無意識と向き合い、受容していくことで、今まで一面的であった意識や無意識がより調和のとれた全体性へと向かっていきます(個性化過程)。
つまり、人生の前半は、外的な世界に基礎を置くのに対し、人生の後半は内的な世界に基礎を置くようになります。
これにより、個人は人生の後半に生じる様々な喪失にも耐えられる人格的柔軟性を獲得していくと考えました。
このように個性化過程において、人は社会や集団の規範との対立や分離、分化を経験することで、個人の特殊性を確立していきます。
しかし、このような過程は人を孤立や孤独に導くものではなく、人をより強固な関係性に導き精神生活を豊かにするものであると考えられています。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
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\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。