フォナギー(Peter Fonagy)

フォナギー

"フォナギ―(Fonagy, P.)"は、1952年から現在まで活躍している心理学者です。
自我心理学』の流れを汲む精神分析家の一人になります。

フォナギ―は1952年にハンガリーで生まれ、後にイギリスに渡ります。
ロンドンで臨床心理学を学び、首席で卒業、その後、『精神分析』の訓練を受け精神分析家となります。

フォナギ―ははじめ自我心理学の訓練を受けますが、そこに疑問をもち、”ビオン(Bion, W. R.)”や”ウィニコット(Winnicott, D. W.)”をはじめとした様々な精神分析家の知見を吸収しようとします。
また、『愛着』理論を提唱した”ボウルヴィー(Bowlby, J.)"とも交流を持ち、精神分析と愛着理論の橋渡しを行います。

このようにしてフォナギ―はフロイト(Freud, S.)”以降の各学派の精神分析の理論や愛着理論を取り入れていき、新たな理論を生み出していきます。
そして提唱されたのが『メンタライゼーション』理論になります。

メンタライゼーションとは、自分や他人の心の状態を理解し、その感情や意図に思いを巡らせる能力のことを指します。
つまり、自分と他者の精神状態に注意を向けること、心で心を思うことを指します。

フォナギ―は、このメンタライゼーションがあることで、人は自己や他者の心を理解することができ、対人関係を築き上げていくことが出来るようになると考えました。

名詞形としてはメンタライゼーションという言葉が用いられますが、行為を表す場合は『メンタライジング』という言葉が用いられます。

フォナギーは、メンタライゼーションの発達は、養育者との愛着関係を基盤としてなされると考えました。
養育者が子どもの感情や欲求を共感的に受け止め、表情や声で反応(『ミラーリング』)することで、子どもは心の中に自分の心があると感じられるようになり、自分の気持ちや他人の気持ちに気づいていけるようになります。
そのような養育者のメンタライジングが、安定型の愛着を生み、子どものメンタライジングの能力を発達させていくと考えました。

しかし一方で、養育者が子どもの感情に対して無関心であったり、過度に批判的であったりした場合、メンタライゼーションの発達がうまく進まず、子どもは自分の気持ちをうまく理解できず、他人の気持ちも想像しにくくなります。
このような場合、子どもは他者の意図を敵意的に解釈してしまったり、感情を抑えたり、激しくぶつけたりするなど、不安定な対人関係が生じることもあります。

フォナギ―はこのようなメンタライゼーションの発達に関する理解を、『境界性パーソナリティ障害(BPD:borderline personality disorder)』の理解にも応用しました。
境界性パーソナリティー障害の症状は、他人の心の状態や自分の感情を適切に把握しづらく、瞬時に感情が変わりやすいことが特徴です。
そのため、対人関係で強い衝突が生じたり、自己イメージが不安定になってしまう場合が多くあります。

フォナギーはこのような特徴は、通常の発達(安定型の愛着)において獲得されるはずのメンタライジングの能力や情動調節の能力が、何らかの要因で得られなかったことによるものと理解しました。
そのため、メンタライゼーションの発達が、境界性パーソナリティー障害の治療において重要であると考え、新たな治療法を生み出します。

それにより生み出されたのが『メンタライゼーションに基づく心理療法(MBT:Mentalization Based Treatment)』になります。
この治療法は、愛着理論を土台にしており、治療を通じて患者が心の中に安定した自己のイメージを築き、他者との関係で柔軟な対応力を養うことを目指しています。

フォナギーの理論や治療法は、精神分析と心理療法の分野で幅広く支持され、現代の心理療法における新たなアプローチとして多くの実績を上げています。
また、彼の研究は理論だけでなく実証的な研究によっても裏付けられており、精神分析とエビデンスに基づく心理学の橋渡しとして評価されています。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

横川滋章・橋爪龍太郎(2015)『生い立ちと業績から学ぶ精神分析入門  22人のフロイトの後継者たち 』 乾 吉佑 (監修), 創元社.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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