遊戯療法(play therapy)
遊戯療法
『遊戯療法』は、「遊び(play)」を通して治療や心の癒しを行う『心理療法』です。
主な対象は子どもであり、心因性の問題だけでなく、『発達障害』を抱えた子ども、『虐待』や被災によりトラウマを抱えた子どもなどの幅広い問題に用いられています。
1910年代頃、子どもらが抱える心理的な問題に対して”フロイト(Freud, S.)”が創始した『精神分析』の適用が試みられるようになりました。
精神分析の主な対象は成人でしたが、”アンナ・フロイト(Freud, A.)”や“クライン(Klein, M.)”らが児童への適用を試み、遊戯療法として確立していきました。
アンナ・フロイトとクラインは共に、子ども達が持つ心の豊かさを見出す一方で、その発達の複雑さや子どもたちが抱える苦しみも同時に認めていました。
そして、それらを理解し癒すための方法として「遊び」を重視し、治療に用いるようになりました。
しかし、二人は子どもに対する理解の違いから、多くの部分で対立しました。
クラインは、子どもの遊びを大人の治療法に用いられる『自由連想法』と同等と考え、小さな子どもの『無意識』を解釈することが治療につながると考えました
特に子どもが体験している見捨てられ不安や憤怒、嫉妬といった概念に焦点を当て理解しようとしました。
その一方で、アンナ・フロイトは子どもが自分自身で、なぜそう考え、感じ、行動したのかについて『洞察』(意識的に理解)できるように治療者が手助けすることが治療につながると考えました。
子どもは治療意欲が低いため、治療者との情緒的な繋がりや支持的、教育的な関わりが必要であり、それにより子どもに心理的な変化が生じると考えました。
また、アンナ・フロイトは子どもの心理的な成長や発達の因子には、子どもの行動や『防衛機制』だけでなく、子どもの健康状態、生活状況、認知能力なども含まれると考えました。
そのため、子どもに対するアプローチだけでなく、養育者への ガイダンスや学校での『コンサルテーション』も重視し、治療に組み込みました。
1920年代後半から始まったアンナ・フロイトとクラインの論争はお互いの理論を認め合い修正していくことで終息していくことになりました。
その後、遊戯療法は様々な治療者により実践されていきますが、中でも"アクスライン(Axline, V. M.)"がその発展に大きく貢献します。
アクスラインは、子どもの自己治癒力を最大限に生かすことを考え、『来談者(クライエント)中心療法』の立場から遊戯療法を行う治療者に必要な『8つの基本原理』を提唱しました。
アクスラインが提唱した8つの基本原理は、『アクスラインの8原則』や『遊戯療法の8原則』とも呼ばれ、以下のようになっています。
- 温かい友好的な関係(『ラポール(ラポート)』)をつくる。
- あるがままの姿を受容する。
- 受容的な雰囲気をつくる(受容的な感情を持つ)。
- 感情を敏感に察知し、オウム返しすることで自分の行動を洞察しやすい ようにする(適切な情緒的反射)。
- 子供の解決能力を疑わない(選択の自由や責任は子どもにあることを理解する)。
- 子どもがリードをとり、セラピストが従う(非指示的な態度)。
- 治療を早くしようとしない(治療はゆっくり進むと理解し構える)。
- 必要最低限の制限しか与えない(責任の自覚や現実との関係づけのために必要な制限を導入する)。
このように遊戯療法では、「遊ぶ」ことそれ自体に自己治癒的な意味があると捉えます。
「遊ぶ」ことは、子どもたちにとって自分自身をありのままに表現することであり、「遊ぶ」ことを通して、子どもたちは感情の解放(『カタルシス』)や満たされなかった欲求の緩和、葛藤の処理を経験し、社会に必要な心身の機能(攻撃性のコントロールなど)を発達させていくと考えます。
また、「遊ぶ」ことにより子どもたちは心理的な『退行』を経験し、未解決であった『発達課題』に直面していきます。
そして、その未解決の発達課題を克服することで、心の再統合がなされていきます。
このように遊戯療法では、子どもたちの心理的な問題の緩和を図るだけでなく、子どもたちの未解決の発達課題の達成や心の再統合を目指していきます。
実際の遊戯療法では、プレイルームが設置され、必要に応じて砂場や様々な遊具、玩具も用意されます。
また、適用範囲は、多くの場合3歳頃から思春期のはじまりごろまでであり、思春期には『箱庭療法』が用いられる場合もあります。
遊戯療法の過程は、それぞれの子どもによって異なりますが、中には「遊び」を通して次第に否定的な感情や攻撃的な感情を表現する子どももいます。
しかしそれらは多くの場合、子どもが成長するための一時的な退行を表しており、治療者により肯定され受容されることで、子どもの心は再統合されていき現実での変化に繋がっていくとされています。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。