心理劇(psychodrama)

心理劇(サイコドラマ)

心理劇(サイコドラマ)』は、1920年代に、オーストリア人の精神科医"ヤコブ・レヴィ・モレノ(Moreno, J. L.)"によって提唱された『集団療法』の一つです。
彼の妻であり、共にこの療法を発展させた"ザーカ・T・モレノ(Moreno, Z. T. )"も、その発展に大きく貢献しました。

心理劇とは、参加者が即興で演技を行い、自分の感情や問題を具体的に表現しながら自発性や創造性を高め、自己理解を深める『心理療法になります。
参加者が劇を通して日常生活や心の中で抱えている葛藤、未解決の問題を演じることで、自分の内面を深く探り、洞察を得ることが可能になります。

心理劇のルーツは、モレノがウィーンで行っていた活動にあります。
彼は公園で子どもたちと即興演劇を行い、遊びを通じて彼らの心を解放する試みをしていました。
この活動が原型となり、後にアメリカに渡ったモレノが心理療法として体系化しました。

また、モレノは、従来の『精神分析』が過去の出来事に焦点を当てていたのに対し、「今、ここで」の体験を重視するアプローチをとり、ただ話すだけでは得られない新しい洞察や感情の解放を可能にしました。

心理劇の根幹を成す理論が『役割理論』です。

役割理論とは、人間を「役割の集合体」と捉え、それぞれの状況で果たす役割によって人の行動や思考は柔軟に変わるという考え方です。
ここでの役割とは、日常生活で私たちが演じるさまざまな行動や言動、思考のことを指します。
例えば、家で親としての役割を果たし、職場では同僚として働き、友人とは楽しく話すなど、私たちは状況に応じて役割を変えながら生活しています。

つまり、役割理論では、同じ人でも場面によって全く異なる役割を演じることがあり、その時々の役割に応じて行動や思考が変化する点が強調されています。

心理劇の目的は、個人がこのような役割を通じて自己理解を深め、新たな役割を試すことで自身を変容させていくことになります。
例えば、普段は自分の意見を言えない人が、心理劇を通じてリーダー役を演じることで自信を持ち、発言できるようになることがあります。

このように、心理劇を通じて新しい役割を体験することで、今まで気づかなかった自分を発見し、行動に変化をもたらすことができると考えられています。

心理劇には、『役割交換(ロールリバース)』や『二重自我(ダブル)』といった技法があります。

役割交換では、親と子どもの役割を交換して演じることができます。
これにより、普段は親としてしか見られなかった子どもの感情や考えを理解し、他者の立場に立って物事を考える力を養えます。

また、ダブルでは、参加者が自分の感情を他者に表現させ、その人が本来感じていることに気づく手助けをします。
この技法を通じて、他者の視点から自分を見直し、新たな洞察を得ることができます。

このように、役割理論は人間の行動や思考を「役割」といった側面から理解し、心理劇を通じてその役割を再学習し、適応するためのプロセスを提供します。

心理劇は、以下の5つの要素によって成り立っており、相互に関わりながら進行していきます。

  • 監督(ディレクター)
    • 全体の演出・進行を行うセラピスト。
  • 補助自我
    • 監督や演者をサポートする役割を演じるセラピスト。
  • 演者
    • 劇の主役となるクライエント。
  • 観客
    • 演者を見守り支え、劇を観る他のクライエント。
  • 舞台
    • 演技が行われる場所。

また、心理劇のセッションは、大きく3つの段階で展開されます。

まず、参加者の緊張をほぐし、演じやすい雰囲気を作る「ウォーミングアップ」から始まります。
その後、劇のテーマや役割、場面を設定し、実際に演技を行う「劇化」が行われます。
そして最後に、観客の感想や共感をシェアすることで心理的な共有感を高める「シェアリング」が行われます。

このプロセスを通じて、クライエント(参加者)は自己理解を深め、新しい行動や視点を得るきっかけをつかむことができます。

心理劇の効果は多岐にわたり、感情の解放や自己洞察の促進だけでなく、対人関係の改善や創造性の向上にもつながるとされています。
特に、自分が抱える問題を他者と共有し、他者の視点を知ることで、人間関係の新たな築き方を見つけることができると考えられています。

役割理論

役割理論とは、人間を「さまざまな役割の集合体」として捉え、それぞれの状況で果たす役割によって人の行動や思考は柔軟に変わるという考え方です。

例えば、家庭では親として、職場では同僚として、友人の前では仲間として異なる役割を演じながら生活しています。
この理論は、人間の行動や思考を「役割」といった側面から理解し、心理劇を通して新しい役割を試すことで自己理解を深め、成長や変化を促すことを目的としています。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

この記事を書いた人

上岡晶の画像

臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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