心理性的発達理論(psychosexual development)

心理性的発達理論

心理性的発達理論』は、『神経症』(ストレスなどの影響により、精神が不調となり症状が出る病気)の理解と治療のために生み出された理論です。
フロイト(Freud, S.)”により生み出され、『精神分析』理論に組み込まれています。

精神分析では、神経症の発症には、思い出せない苦痛な体験や記憶が関わっていると考えます。
そして、それは苦痛な体験が『無意識』の領域に『抑圧』されている状態であると考えます。
そのため、神経症の治療は、無意識に抑圧された苦痛な体験を意識化し思い出すことにより可能なのではないかと考えます。

このような神経症の治療を行う中でフロイトは、患者から語られる無意識の領域に抑圧された苦痛な体験に共通する部分を見つけ出し、心理性的発達理論を生み出していきます。

フロイトは、人の心にある根源的なエネルギーや欲望を性的な欲動と理解し、『リビドー』と名付けました。
人は幼少期からこのリビドーに突き動かされ、快感や満足を得ようと活動し、それらが得られることで健全な心が成長していくと考えました。

しかし、発達の過程でリビドーが、十分な快感や満足感を得られない場合があります。
そのような場合を、心理性的発達理論では、『固着』と呼び理解します。

この固着により、人の心の成長は特定の段階で停滞してしまい、苦痛な体験として無意識の領域に抑圧されることにより、神経症の発症や、のちの不適応的な人格の形成に関わっているのではないかと考えます。

このように、フロイトは幼少期の親子関係の中での体験が神経症を形成する重要 な要因であると考えました。

心理性的発達理論では、人の心の発達を以下のような5つの段階に分けて理解しようとします。
各段階において、リビドーが快感や満足を得るために、各時期に合わせた身体部位(体の一部)が使用されると考えられています。

  • 前性器期
    • 口愛期(口唇期)』(生後1歳半ごろまで)
    • 肛門期』(1歳半から4歳ごろまで)
    • 男根期(エディプス期)』(2歳から5歳ごろまで)
  • 性器期
    • 潜伏期』(6歳から12歳ごろまで)
    • 性器期』(思春期以降)
STEP
口愛期(口唇期)(oral stage)(生後1歳半ごろまで)

生後1歳半ごろの子どもは、母乳やミルクなしでは生きていけず、自らの生存のためそれらを求めます。
そのために使用される身体部位は、口や唇になります。

赤ん坊は母乳を吸うことで、リビドーが十分満たされ、基本的な信頼や安心感を得ていくことができます。
また、リビドーが満たされない 欲求不満を通して、自分の思い通りにならないことに気づき、他者の発見に繋がっていきまます。

この時期に固着すると、その後の人格として甘ん坊で依存的、他者と自分の気持ちの区別がつくにくいなどの傾向を持つようになると考えられています。
また、口や唇に関連した問題行動として、アルコールや薬物、たばこへの依存、過食などの問題行動に発展していく可能性があると考えられています。

STEP
肛門期(anal stage)(1歳半から4歳ごろまで)

1歳半ごろになると、乳幼児は自身で大便を排泄したり、お腹にとどめておくことが必要になります。
そのために使用される身体部位は、肛門になります。

この時期の子どもは色々な行動が可能になり、自分の意志を表明できるようになります。
しかし、子ども一人ではできないことも多く、親の関わり(しつけ)が必要になります。

心理性的発達理論では、この時期特に排便のコントロール(トイレットトレーニング)が必要になってくるとし、親の関わり通して、それを身に着けていくが後の自己コントロール感の獲得に繋がっていくと考えます。

この時期に固着すると、その後の人格として、几帳面で頑固 、人を支配したがる反面、ルーズでだらしないなどの傾向を持つようになると考えられています。
また、その後の発達において、強迫性障害などに発展していく可能性があると考えられています。

STEP
男根期(エディプス期)(phallic stage)(2歳から5歳ごろまで)

2歳から5歳ごろにかけて徐々に子どもは性的な違いについて気づいていくことになります。
そのため、この時期に中心となる身体部位は男根になると考えます。

子どもは性器の刺激による快感を発見しはじめ、『エディプス・コンプレック』を感じ始めるとされています。
エディプス・コンプレックとは、同姓の親を打ち負かし、異性の親の愛情を得たいという気持ちと、それについて不安や罪悪感(『去勢不安』)を伴う葛藤を指します

このエディプス・コンプレックを通過することにより、後の男性性や女性性、健全な『超自我』の獲得に繋がっていくとされています。
また同性の親との二者関係から異性の親を含めた三者関係へと広がり社会へと踏み出すことになります。

この 時期に固着すると、その後の人格として、攻撃的で自己愛的、傲慢などの傾向を持つようになると考えられています。
また、その後の発達において、神経症などに発展していく可能性があると考えられています。

STEP
潜伏期(latency period)(6歳から12歳ごろまで)

エディプス・コンプレックを通過すると、リビドーの快感や満足を求める働きが一旦休止となります。

子どもの情緒は比較的安定している時期であり、外界に関心が向き、社会や集団を学んでいきます。

STEP
性器期(genital stage)(思春期以降)

潜伏期で、休止していたリビドーの活動が再び活性化します。

この時期には異性に関する関心や思いやり、相手の幸福(愛他的)に向けて働くようになります。

この時期を通して、安定した人格を獲得し、異性を1人の人間として愛せるようになっていくとされています。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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