回想法(reminiscence therapy)

回想法

回想法』は、1960年代にアメリカの精神科医"バトラー(Butler, R. N.)"によって提唱された『心理療法』になります。
主な対象は高齢者や『認知症』を抱える方々になります。

回想法とは、クライエントが自身の過去の人生経験を振り返り整理することで、その意味を見つけ出し、心の安定や『自我』の統合を果たしていくことを目的とした心理療法です。

バトラーは、自身の臨床経験と研究を通じて、高齢者が自然に自らの過去を振り返る行為を行っていることに気付きました。
彼は、老年期における心理的な課題や問題、例えば加齢に伴う身体的な変化、社会的な役割の喪失、孤独感などに注目し、その中で「人生の振り返り」が心理的な健康を保つ上で重要な役割を果たすと考えました。

このように、バトラーは過去を振り返ることがもたらす心理的な効果に着目し、高齢者が自分の人生に意味を見出す手助けをする方法として回想法を考案しました。

回想法の目的は、高齢者が人生を振り返り、そこで得た経験や価値を再認識することにあります。
この過程で、専門家は共感的かつ受容的な姿勢で話を傾聴し、心理的支援を行います。

このような支援により、高齢者は心理的な安定を得ることができ、”エリクソン(Erikson, E. H.)”の提唱する老年期の課題(自我の統合)も促進されると考えられています。
自我の統合とは、自分の過去の出来事を意味づけ、全体として受け入れることで、自己肯定感を高め、老年期における精神的な充足感を得るプロセスです。

回想法の主な効果としては、認知症の進行を遅らせることはできませんが、情緒の安定や覚醒水準の向上が期待されます。
過去の経験に触れることが、高齢者の生活機能を活性化し、日常生活をより充実させる助けとなります。

また、社会的なつながりの回復や人間関係の修復といった副次的な効果も見られることがあります。
これにより、孤立感を軽減し、コミュニティとのつながりを再構築する手助けとなります。

回想法は、単なる会話や思い出話ではなく、心理的な安らぎや充足感をもたらす効果的な支援方法です。
特に高齢者が人生の最終段階で直面する困難に対して、その意味を再確認する手助けをすることで、自我の統合を促進し、精神的な健康を維持するための重要な方法として広く活用されています。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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