ハヴィガースト(Robert James Havighurst)

ハヴィガースト

"ハヴィガースト(Havighurst, R. J.)"は、1900年から1991年に活躍したアメリカ人の教育学者、発達心理学者になります。
発達課題』に関する理論の提唱者としても知られています。

1900年にアメリカのオハイオ州で生まれた彼は、ハーバード大学で化学を学び、1924年に博士号を取得しました。
当初は化学者としてのキャリアを歩んでいましたが、やがて社会科学や教育学に関心を移し、個人の発達と教育の相互作用に焦点を当てた研究を行うようになりました。

ハヴィガーストが発達課題に関する理論を構築した背景には、1900年代初頭の社会的・文化的変化があります。
当時、都市化や産業化が進み、人々の生活や価値観が大きく変化していました。

また、心理学の分野では、フロイト(Freud, S.)”トや”エリク・エリクソン(Erikson, E. H.)”、”ピアジェ(Piaget, J.)”といった研究者たちが人間の発達は段階的に進むという「発達段階」の概念を提唱し、発達心理学が急速に発展していました。
この流れの中で、ハヴィガーストは特に社会的・文化的要因が個人の成長にどのような影響を与えるのかに注目し、独自の理論を構築しました。

ハヴィガーストは、人の心が健全な成長を遂げるために、各発達段階で達成すべき課題があることを示し、発達課題の考えを提唱しました。

発達課題とは、人生の各発達段階で達成すべき心理・社会的な目標や課題のことを指します

ハヴィガーストは、発達課題は「生物学的要因」、「社会的要因」、「個人的要因」の相互作用によって形成されると考えました。
例えば、生物学的要因としての身体的成熟、社会的要因としての文化的や環境から期待、そして個人的要因としての価値観や目標が、個人の成長に必要な課題を規定します。

彼は、個人がこの課題を達成することで幸福感を感じ、次の段階への円滑な移行が可能になっていくと考え、逆に達成できない場合には次の発達段階での困難が生じる可能性があると指摘しました。

ハヴィガーストは、発達を6つの段階に分け、それぞれの段階における発達課題を以下のように想定しました。

乳幼児期(~6歳ごろ)
  • 歩行や話す能力の習得
  • 排泄の自立
  • 性の相違の理解
  • 正・不正を判断する良心の発達
児童期(6~12歳ごろ)
  • 読み書きや計算など基礎的な技能の習得
  • 仲間との健全な関係の構築
  • 社会的なルールや役割の理解
青年期(12~18歳ごろ)
  • 情緒的な独立性の確立
  • 職業選択と社会的自立
  • 自己アイデンティティの確立
壮年期(18~30歳ごろ)
  • 配偶者の選択や恋愛関係の構築
  • 家庭や職場での責任の遂行
  • 子どもの養育と教育
中年期(30~60歳ごろ)
  • 経済的安定と社会的役割の遂行
  • 人生の目的や価値観の再評価
  • 社会的影響力の拡大と成熟
老年期(60歳ごろ~)
  • 身体的衰退への適応
  • 老いと死への適応
  • 他の高齢者との関係の構築
  • 人生の意味や価値の再確認

このように、ハヴィガーストの理論は、生涯にわたる人間の発達に焦点を当てた普遍的な視点を提供しており、教育や発達心理学、『心理療法』など多くの分野で評価されています。

発達課題(developmental task)

発達課題とは、人生の各発達段階で達成すべき心理的・社会的な目標や課題のことを指します。

これらの課題は、生物学的要因(身体の成熟)、社会的要因(文化や環境の期待)、個人的要因(価値観や目標)の相互作用によって形成されます。

課題を達成することで、その後の成長や適応がスムーズになり、逆に達成できない場合は次の段階で困難を抱えることがあると考えられています。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

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この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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