ロールシャッハ・テスト(rorschach test)

ロールシャッハ・テスト

ロールシャッハ・テスト』は、『 心理検査』の一つであり、1921年にスイスの精神科医である"ヘルマン・ロールシャッハ(Rorschach, H.)"によって発表されました。
心理検査の中では、『パーソナリティ(人格)検査』の『投映法』に分類されています

パーソナリティ(人格)検査の目的は、被検者(検査を受ける人)のパーソナリティを明らかにし、自己理解や支援に役立てることにあります。

ロールシャッハ・テストでは、被検者にインクのしみを使った図版が提示され、被験者はそれを見て自由に反応します。
そしてそれを検査者が分析することで、被検者のパーソナリティを明らかにしようとします

ロールシャッハは、幼い頃から絵画や芸術に興味を持ち、特にインクのしみを使った絵を描く遊びを楽しんでいました。
この体験が、後のロールシャッハ・テストの発想につながったと言われています。

その後、精神科医となり、『統合失調症』(当時の「早発性痴呆」)に特に関心を持ちました。
彼は、患者の知覚や思考の歪みがどのように現れるのかを研究し、その観察をもとにインクのしみを用いた心理検査を開発しました。
これにより生み出されたのがロールシャッハ・テストになります。

ロールシャッハが目指したのは、被験者の無意識に隠れた心理的な特徴や葛藤を明らかにすることです。
彼はまた、当時の”フロイト(Freud, S.)”の『精神分析』の影響も受けており、『無意識』を探る方法としてこのテストを考案しました。

ロールシャッハは、1921年に「精神診断学(psychodiagnostik)」という著書の中でロールシャッハ・テストを発表しました。
しかし、彼はそのわずか1年後に急逝してしまいます。

その後、このテストは多くの研究者たちによって改良され、世界中で使われる診断ツールとなりました。
特に、アメリカの"エクスナー(Exner, J. E.)"が開発した 『包括システム』によって、テスト結果の解釈が科学的で統一的なものとなり、より信頼性が高まりました。
また、日本では、"片口 安史"が提案した『片口法』や、大学ごとの独自の解釈法(『阪大法』、『名大法』)も発展しています。

ロールシャッハ・テストの独創性は2つ挙げられます。
ひとつは、10枚のインクのしみを使った刺激図版を採用している点、もうひとつは、被験者の反応内容そのものではなく、その知覚体験に焦点を当てている点です。
ロールシャッハによると、このテストは単なる空想力の検査ではなく、被験者が図版の模様と自身の知識やイメージを照らし合わせながら選択を行う、心的プロセスの一部だとされています。

ロールシャッハ・テストの具体的な実施方法は以下のようになっています。

実施方法

実施前

  • 準備物(検査者)
    • 10枚の図版
    • ストップウォッチ
    • 検査用紙

実施中

  • 自由反応段階(performance proper)
    • 検査者は被検者に10枚のカードを1枚ずつ提示し、「どのように見ても構いません。何か感じたことを自由にお話しください。」と教示します。
    • 検査者は、被験者の反応や会話内容を記録します。
  • 質問段階(inquiry)
    • 自由反応段階で全てのカードを提示し終えた後に行います。
    • 再度、10枚のカードを1枚ずつ提示し、今度は、被験者がどの部分に注目(反応領域)し、なぜそのように見えたのか(反応決定因)、何に見えたのか(反応内容)を詳しく尋ねます。
  • 限界吟味段階(testing the limits)
    • 質問段階で全てのカードを提示し終えた後に必要に応じて行います。
    • 必要に応じて、質問や確認を行い、最後に被検者の覚醒を促すために全体の感想を聞いて終了します。

実施後

  • 採点(検査者)
    • 被験者の反応を以下のような項目で分析します
    • 反応領域
      • 図版のどの部分を見たか。
      • 図版全体を見た反応(W)、細部に注目した反応(D)、さらに細かな部分(d)、空白領域への反応(S)など。
    • 反応決定因
      • なぜそのように見えたか。
      • 形態(F)、動き(M、FM、m)、色彩(C)、濃淡(K)など。これにより、被験者がどの要素を基に解釈したかがわかります。
    • 反応内容
      • 何を見たか。
      • 人間(H)、動物(A)、自然(Nat)、情景(Lsd)、人工物(Art)など

さらに、反応の適切性や独自性を評価する『形態水準(±)や、他者と一致しやすい答え(平凡反応(P))の割合なども考慮されます。

  • 解釈(検査者)
    • 採点の結果を基に、被検者の状態を判定します。
  • フィードバック(検査者→被検者)
    • 検査者は検査により明らかになった被検者の状態を被検者にフィードバックし、自己理解や支援に役立てます。
    • この手続きは所属機関によって様々で、他職種から依頼があり実施した場合は、他職種へ検査結果を報告し、他職種から被験者にフィードバックする場合もあります。
    • フィードバックを行う際には、検査結果をあらかじめ心理検査所見として書面にまとめる場合も多くあります。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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