情緒発達理論(the theory of emotional development)

情緒発達理論

情緒発達理論』は、”ウィニコット(Winnicott, D. W.)”による様々な実践や研究の中で生み出された理論になります。

ウィニコットは、人の心の発達について、乳幼児期の子どもと養育者(主に母親)の関係に注目し理解しようとしました。
そして、人が自立(『一人でいられる能力』の獲得)に至る過程を『依存』の概念を用いて説明しようとしました。

ウィニコットは依存を、『絶対的依存』の段階と『相対的依存』の段階の2つに分けました。

絶対的依存の段階

絶対的依存の段階は、生後からおよそ6カ月までの時期を指します。

生まれたばかりの赤ん坊は、自分で生きていくことが出来ません。
そのため、絶対的依存の段階では、養育者の献身的な世話(『抱えること(holding)』)により乳幼児は生きていくことが出来ます。

しかし、乳幼児は、認知機能が発達しておらず、自分や他者の区別ができず、全てがバラバラでまとまりのない状態です。
そのため、乳幼児には自分が誰かに依存しているという認識はなく、自分の欲求にほぼすべて答えてくれる(母親の『原初的没頭』)養育者を自分の一部であると『錯覚』すると考えられています。

このような絶対的依存の段階にある乳幼児は欲求や感情をそのまま表出(『原初的な無慈悲さ』)しますが、養育者の、抱えることや『生き残ること』と言った関わりにより、乳幼児の中に愛着や安心感、信頼感が芽生え、自立や『本当の自己』に向けての基盤が出来上がってくると考えました。

その一方で、養育者が乳幼児の原初的な無慈悲さに耐えられず、また、抱えることや生き残ることが出来ず、仕返しや報復をしてしまう場合、乳幼児は『想像を絶する不安』を体験することになり、その防衛として『偽りの自己』が形作られていくと考えました。

相対的依存の段階

相対的依存の段階は、生後6か月から2歳ぐらいまでの時期を指します。

乳幼児は徐々に、認知機能が発達し、自分や他者を区別し始めます。
そのため、相対的依存の段階では、乳幼児は、養育者のことを自分ではない自分の外である何かであると気づきはじめ(『脱錯覚』)、その存在を意識しはじめるとされています。
また、自分は誰かに頼らなければ生きていくことが出来ない存在であることにも気づき始めます。

このように、絶対的依存の段階において、乳幼児は養育者との一体感を経験していましたが、相対的依存の段階になると、乳幼児は養育者との分離を体験し始めます。
これにより、乳幼児の中には分離に対する不安(『分離不安』)が生じてきます。

このような絶対的依存の段階から相対的依存の段階へと移行していく中間領域において生じる分離不安を和らげ、自立や現実への適応を可能にしていくものが『移行対象』になります。

また、この段階では、養育者が、ほどよく子どもの万能感を満たしつつ、子どもが自分でできるようになったものから手を引いていくような『ほどよい母親(good enough mother)』としての関わりが重要であり、それにより子どもの中に『思いやり』が芽生え、自立や適切な他者との関係に向かっていきます。

このように、乳幼児はその発達の過程において様々な欲求や感情を経験しますが、養育者の抱えることや生き残ること、ほどよい母親といった関わりや移行対象の存在により、安心感や信頼感を得ていき、本当の自己が形作られていきます。
そして、孤立とは異なる相互依存的な対人関係を築いていくこと(自立)や、誰かと一緒にいながらも一人でいられること(一人でいられる能力)が可能になっていくとされています。

井原成男(2014)「Winnicottにおける生き残ることと対象の使用の逆説」10, p181-193, 人文科学研究.

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

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この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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