認知発達段階説(theory of cognitive developement)
認知発達段階説
『認知発達段階説』は”ピアジェ(Piaget, J.)”により提唱されました。
ピアジェは主に認知機能(知覚や判断、想像、推論、決定、記憶、言語理解などの知的機能)の発達の研究に取り組みました。
ピアジェは、人の認知機能がどのように生まれ、発達していくのかについて、『シェマ』という概念を生みだして理解しようとしました。
シェマは人が外界(自分をとりまく世界)を認識するための枠組みのようなものであり、それらが発達していくための要因として、『同化』と『調節』『均衡化』があると考えました。
- シェマ
外界(自分をとりまく世界)のものを認識するための枠組みのことを言います。
- 同化
外界(自分をとりまく世界)のものを自分の中(シェマ)に取り入む働きのことを指します。
取り込むときに、自分が取り込みやすいようにその対象を変化(同化)させます
- 調節
同化と同様に、外界のものを自分の中(シェマ)に取り込む働きのことを指します。
しかし、同化と異なり、調節は対象を取り込みやすくするために、外界の対象に合わせて自分自身を変える(調節)ことを指します。
- 均衡化
認知機能(シェマ)の発達のために、同化と調節を繰り返し、より安定した構造へと変化していく過程を均衡化と言います。
ピアジェはこのような認知機能の発達はある程度均衡した構造から、より均衡化した構造へ移行していくと考えました。
そしてこの過程は段階に区切ることができ、移行は短い移行期間の間に比較的急激に起きると考えました。
これが『認知発達段階説』の考えになります。
『認知発達段階説』では認知の発達を4つの段階に分けて理解しようとしました。
4つの段階は以下のように区分けされます。
- 『感覚運動期』0~2歳
- 『前操作期』2~7、8歳
- 『具体的操作期』7、8歳~11、12歳
- 『形式的操作期』11、12歳以降
- 操作
行為が内化されたものを指します。
つまり、実際に行為として行うのでなく、頭の中(心の中)で行うことを指します。
感覚と運動の協応(絡み合い)によって、外界に適応していく時期です。
生得的な反射が修正されていくことによって適応的な行動が獲得されていきます。
これは、ある反応によって良い結果が生じると、また反応を引き起こし、これが繰り返され、新しい行動が定着していきます。
このことを『循環反応』と呼びます。
また、同化と調節が繰り返されることで、シェマが外界に対応していきます。
この時期には、外界の対象が目の前から隠れて見えなくなっても、それはどこかに存在し続けることがわかるようになります。
これは、『対象の永続性』の獲得といいます。
さらにこの時期には、目の前にない事象(物事や現象)を思い浮かべることができはじめます。
これを『象徴機能』や『表象機能』の現れと理解します。
表象機能が現れ始めたことによって、言語や心象(心に浮かぶ姿や形)が獲得されていきます。
外的な動作として行われることなく、内部的に思考が処理されていきます。
しかし、この段階では論理的な誤りがまだ見られる時期であるため『前操作期』と呼ばれています。
この時期には、事物のある性質がそれを変えるような本質的変化が生じなければ変わらないことを理解し始めます。
これを『保存の概念』の現れと理解します。
しかし、同じような保存の概念が必要な課題であっても、課題(数字の問題か、液体の問題かなど)によって理解に差が生じることがしばしばあります。
このことを、『水平デカラージュ』と呼びます。
そのため、前操作期では、保存の概念の獲得までには至っておらず、具体的操作期に確立されることとなります。
また、順序や物事の繋がり、連続性なども理解し始めます。
これを『系列性』の理解と言います。
ただ、この時期には、自分の現在の視点にとらわれる傾向が強く、他の人の視点を良く認識することができません。
これを『自己中心性』と呼びます。
また、前操作期には、自己中心性に加え、物事の一側面にとらわれる『中心化』の傾向も見られ、この状態を脱し物事を多面的にみる『脱中心化』は出来ないと考えられています。
また、無生物に対しても意識のある存在だと考える傾向も見られます。
これを『アニミズム』的な傾向と呼びます。
具体的な事物についての論理的思考が一応出来るようになるのが具体的操作期です。
前操作期で記載した保存の概念がこの時期に獲得されます。
具体的操作期では、知覚したものや具体的に理解できるものに関して、自分の頭の中で筋道や系統立てて考えることが可能になります。
このような論理的思考操作の体系のことを『群性体』と呼び理解しようとしました。
しかし、この時期には、まだ具体的な内容を離れて抽象的、一般的な形式的思考をすることはできないと考えられています。
形式的操作期では、具体的な現実に縛られることなく、抽象的、一般的な形で形式的に考えることができるようになります。
ある命題が与えられると、その内容が現実にあり得るかどうかにかかわらず、与えられた条件ではどのようなことが起きるのかを考えることができます。
これを『命題的操作』と言います。
また、その命題が示す一定条件の下で生じうるあらゆる可能性を考えてみることができ、それと現実の結果を対比することが可能になります。
これを『仮説演繹的思考』と呼びます。
演繹法(deduction method)
演繹法とは、普遍的命題(公理)から個別的命題(定理)を導き出すことです。
帰納法(inductive method)
帰納法とは、個別的命題(定理)から普遍的命題(公理)を導き出すことです。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。