体験過程理論(theory of experiencing)
体験過程理論
『体験過程理論』は、"ジェンドリン(Gendlin, E. T.)"により生み出された概念であり、『フォーカシング』の基礎となる理論になります。
体験過程理論とは、人が自分の感情や経験をどのように感じ取り、それを理解していくかを説明する理論になります。
この理論では、感情や考えは、ただ頭の中にあるものではなく、体全体で感じ取られるものだと考えます。
例えば、緊張しているときに、胸がドキドキしたり、胃がキリキリ痛んだりすることがあります。
これが、体が感情を感じ取っている状態です。
ジェンドリンは、こうした体の感覚に注目し、それを 『フェルト・センス(felt sense)』と呼びました。
フェルト・センスとは、何かを感じているけれど、まだそれをうまく言葉にできていない(前概念的な)状態のことです。
たとえば、何かモヤモヤした感じがあるけれど、具体的に何が気になるのか分からないとき、それはフェルト・センスを感じていると言えます。
体験過程理論は、このフェルト・センスに耳を傾けることで、自分の中にある感情や思考がどのように形成されているのか、そしてそれがどのように変化していくのかを理解しようとするものです。
このアプローチを使うと、頭だけで考えるよりも深いレベルで自分の感情を理解することができます。
たとえば、なぜ自分がある状況で不安を感じるのかが分からなくても、体の感覚に注目することで、実は、自分が「この問題が解決しないかもしれないという恐れ」を根底に抱いていたことに気づく場合があるかもしれません。
このように、体験過程理論は、感情や体験をただ頭で考えるだけでなく、体全体で感じ取ることで、より深い自己理解に導いてくれる考え方です。
また、ジェンドリンはこの理論を基にして、フォーカシングという『心理療法』を生み出し、体の感覚に注意を向けることで自分の本当の気持ちや問題の根っこに気づくことを目指しました。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。