心の理論(theory of mind)
心の理論
『心の理論』は、他者の思考や感情、意図を理解し、その理解に基づいて行動を予測する能力を指します。
人の心の実態は目に見えませんが、人は他者の行動や表情からその心を推測し、理解しようとします。
このような心に関する理解を心の理論と呼びます。
心の理論は、社会的なやり取りやコミュニケーションを円滑にするために重要な役割を果たしており、特に幼児期の発達においても注目されています。
心の理論を理解する上で代表的な実験として「サリーとアン課題」と呼ばれる「誤信念課題」があります。
サリーとアン課題
この課題では、サリーとアンという2人のキャラクターが登場します。
物語の中で、サリーはビー玉をカゴに入れた後、部屋を離れます。
その間にアンがビー玉をカゴから取り出して箱に移動させます。
サリーが戻ってきたとき、子どもに「サリーはビー玉をどこで探すと思う?」と尋ねます。(答えは、カゴ)
この質問を通じて、子どもが他者の誤信念(他者が現実とは異なる思い込みや信念を持っていること)を理解しているかを確認します。
3歳児は、この課題においてサリーが箱を探すと答えることが多いです。
これは、3歳児が現実に基づいて考えてしまい、サリーの視点を理解できていないためです。
一方、4歳を過ぎると、サリーはカゴを探すと答えられるようになり、誤信念を理解していることが示されます。
つまり、子どもは4歳前後になると他者が現実と異なる信念を持ち、それに基づいて行動する可能性を考えられるようになります。
ただし、この能力の発達には個人差があります。
たとえば、兄弟の多い環境で育つ子どもは、他者の視点を学ぶ機会が多いため、心の理論が早く発達する傾向があります。
また、子どもの『愛着』の安定性や言語能力も影響するとされています。
特に言語能力は、他者の心を理解し、それを言葉で表現するための重要な基盤となります。
一方で、『自閉症スペクトラム障害(ASD)』を持つ人々は、この課題を解くことが難しい場合があります。
ASDの特徴として、目を合わせることや指差し、ごっこ遊びといった社会的行動が苦手であることが挙げられますが、これに加え、誤信念の理解も難しいことが知られています。
そのため、心の理論の発達の遅れがASDの診断や支援における重要な手がかりとなることがあります。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
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\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。