転移(transference)

転移

転移』は、『神経症』(ストレスなどの影響により、精神が不調となり症状が出る病気)の理解と治療のために生み出された理論です。
フロイト(Freud, S.)”により生み出され、『精神分析』理論に組み込まれています。

精神分析では、神経症の発症には、思い出せない苦痛な体験や記憶が関わっていると考えます。
そして、それは苦痛な体験が『無意識』の領域に『抑圧』されている状態であると考えます。
そのため、神経症の治療は、無意識に抑圧された苦痛な体験を意識化し思い出すことにより可能なのではないかと考えます。

フロイトは神経症の治療の過程において、患者が過去の重要な人物に向けるべきものを治療者に向け、過去を再体験している場合があることに気づきます。
これが転移と呼ばれる現象であり、多くの場合、本人たちの自覚なしに行われます。。

フロイトははじめ、転移を治療の阻害要因と考えていました。
しかし、後に転移がおこることで患者は現在の成長した『自我』で過去の問題と直面でき、過去 に満たされず残っていた内的葛藤を治療者との関係で満たすことができ、それが治療に繋がっていくと考えるようになりました。

また、フロイトは転移には、対象へ近づこうとする親近的な感情を伴う『陽性転移』と、対象を回避しようとする否定的で拒否的な感情を伴う『陰性転移』の二つがあると考えました。
そして、この二つの転移は表裏一体であるため、常に治療者は主観を交えず中立性を保ち、治療を行っていく必要があると考えました。

このように、転移が、治療者に対して引き起こされる患者側の感情反応(治療者←患者)であるのに対し、治療者側が患者に対して感情反応を引き起こす(治療者→患者)場合もあります。
この現象をフロイトは『逆転移』と呼び理解しようとしました。

陽性転移

患者が治療者に対して、信頼や敬意、愛情の感情を持ち、近づこうとする転移。

陰性転移

患者が治療者に対して、否定的で拒否的な感情を持ち、回避しようとする転移。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

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この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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