移行対象(transitional object)
移行対象
『移行対象』は、1951年に”ウィニコット(Winnicott, D. W.)”により提唱された概念になります。
移行対象とは、幼児が愛着をよせる「自分ではない」「無生物の所有物」であり、対象の種類には、ぬいぐるみや人形、毛布、布きれ、その他の柔らかいものから硬い玩具までさまざまなものがあります。
これらは、養育者がそばにいない時や不慣れな場所に行く時などに、幼児の中に生じる『分離不安(separation anxiety)』を和らげるために使われます。
つまり、移行対象は子どもにとって特別な意味をもつ「無生物の所有物」であり、子どもが安心感を得るために用いられるものになります。
ウィニコットは、人の心の発達について、乳幼児期の子どもと養育者(主に母親)の関係に注目し理解しようとしました。
そして、人が自立(『一人でいられる能力』の獲得)に至る過程を『依存』の概念を用いて説明しようとしました(『情緒発達理論』)。
ウィニコットは依存を、『絶対的依存』の段階と『相対的依存』の段階の2つに分けました。
絶対的依存の段階において、生まれたばかりの赤ん坊は、自分の欲求にほぼすべて答えてくれる養育者を自分の一部と『錯覚』してしまいますが、相対的依存の段階になると、乳幼児はその錯覚から抜け出し、養育者は自分ではない別の存在であると気づき始めます(『脱錯覚』)。
そして、このような絶対的依存から相対的依存の段階へ、また錯覚から脱錯覚へと移行していく中で、乳幼児は養育者との分離を経験し、分離不安を体験し始めます。
このような分離不安を和らげ、乳幼児に安心感や代理満足を与えるものとして移行対象が登場します。
このような移行対象の働きにより、乳幼児は分離不安に耐えることが出来ようになり、自立や現実への適応、自他の境界を持つことが可能になっていくと考えられています。
参考・引用文献
井原成男(2014)「Winnicottにおける生き残ることと対象の使用の逆説」10, p181-193, 人文科学研究.
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
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\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。