フェアバーン(William Ronald Dodds Fairbairn)
フェアバーン
”フェアバーン(Fairbairn, W. R. D,)”は、1889年から1964年まで活躍したイギリス人の精神科医になります。
『対象関係論』の流れを汲む精神分析家の一人になります(『独立学派(中間学派)』)。
フェアバーンは、1889年に、スコットランドのエディンバラで生まれます。
厳格なプロテスタントの家庭で育ち、大学では哲学や神学、ギリシャ語などを学びます。
第一次世界大戦がはじまると、フェアバーンは兵役を志願します。
この時に、ヒステリーの症状や戦争神経症などで悩む兵士を目にし、精神療法家の道を志したとされています。
その後、大学で医学を学び精神科医となります。
フェアバーンは、『精神分析』の正規の教育訓練を受けることはありませんでしたが、実践と研究を通して生み出されたフェアバーンの理論は精神分析に大きな影響を与えました。
フェアバーンの功績として、”フロイト(Freud, S.)”が提唱している理論の修正を試みたこと、『スキゾイドパーソナリティ障害』の理解を試みたことなどが挙げられます。
フロイトは人の心を理解する上で、人の根源的なエネルギーや欲望について知る必要があると考え、『リビドー』論を提唱しました。
フロイトの提唱するリビドー論では、人の心的活動の原動力は、基本的に性的な欲求であり、その性的エネルギーが人の行動や感情、心理的な発達に強く影響を与えると考えました。
しかし、フェアバーンは、このようなフロイトの考えを修正し、リビドーの目的は「本来、快感希求的(快感を求めること)ではなく、対象希求的(「対象」(心の中にある他者のイメージ)との関係を築くこと)である」と主張しました。
つまりフェアバーンは、人の根源的なエネルギーは、対象と満足のいく関係を築きたいという欲求であると仮定しました。
このような理論を彼は自ら対象関係論と呼ぶようになり、これにより対象関係論と言う言葉が初めて正式に使われるようになります。
また、フェアバーンはスキゾイドパーソナリティ障害の理解に貢献したことでも知られています。
フェアバーンは、あらゆる精神病理学的状態の中で最も深いものが「分裂的な状態(スキゾイド)」であると考え、それを解明することが人の心や精神構造の基底を理解することに繋がると主張しました。
そしてフェアバーンは、分裂的な状態(スキゾイド)には、「万能的態度」、「情緒的な孤立と引きこもりの態度」、「内的現実のとらわれ」の3つの共通する特徴があると考えました。
このような理解は、複雑な『精神障害』や『人格障害』の心の深層や精神過程を理解することに繋がり、効果的な治療の発展に大きく影響を与えました
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.
横川滋章・橋爪龍太郎(2015)『生い立ちと業績から学ぶ精神分析入門 22人のフロイトの後継者たち 』 乾 吉佑 (監修), 創元社.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。