元型(archetype)
元型
『元型』は、”ユング(Jung、C. G.)”により生み出された理論であり、『分析心理学』に組み込まれています。
元型とは、『集合的(普遍的)無意識』に先天的に備っているイメージのパターンを指します。
『無意識』という概念は『精神分析』を創始した”フロイト(Freud, S.)”により初めて発見されました。
フロイトは無意識について「これまで意識されていたものが何らかの理由 で意識されなくなったもの」と考えていたのに対し、ユングはフロイトが想定した無意識よりもさらに底に生来的な無意識があると考えました。
そしてユングは、フロイトが想定した無意識を『個人的無意識』、さらに底にある無意識を集合的(普遍的)無意識と分類し理解しようとしました。
集合的(普遍的)無意識は、人類の全ての人々が遺伝により潜在的に備えているとされる無意識の層です。
ユングは、集合的(普遍的)無意識を理解していく中で、人類に共通するイメージや無意識内容の基本的な型を見出し元型と呼び理解しようとしました。
分析心理学では、元型の諸相(種類)について、『ペルソナ』、『影』、『アニマ』、『アニムス』、『太母』、『老賢者』、『トリックスター』『永遠の少年』、『 永遠の少女』、『自己』などを想定しています。
精神分析の治療理論では無意識の意識化が重要視されていますが、フロイトは治療者が患者の無意識内容を『自由連想法』などの手法を用いて『解釈』し、患者に伝え返すことにより意識化が可能になると考えました。
しかし、ユングは無意識の意識化は、無意識の心の動きが外界の事物に『投影』されることにより可能になると考えます。
この時に無意識が投影された外界の事物を『象徴』と呼びます。
つまり分析心理学では、無意識は象徴を通して間接的にしか意識化されないと考え、象徴の理解や分析を重視します。
- ペルソナ(persona)
ペルソナは、仮面を表す言葉です。
一人の人間が社会に適応するために一種の妥協を伴い作り上げられた姿を指します。ペルソナは自分(心の内界)と社会(外界)からの期待により揺れ動き変化していくものとされています。
- 影(shadow)
その人の意識によって生きてこられなかった反面のことであり、その人にとって認めがたい心的内容を指します。
しかし影は必ずしも悪いものであるとは限らず、今までその人にとって否定的に捉えていた生き方や考え方の中に、肯定的な面を認め、それを意識の中に同化していく努力がなされることで、『自我』が補完され心の発達に繋がっていくとされています。
- アニマ(anima)
男性の夢などに登場す女性像や女性イメージを指します。
男性は外的には男性的なあり方を期待されるため、男性的なペルソナを作り上げていきます。
そのため、男性における魂のイメージは、男性的なペルソナを補うものとして女性的なものとなります。この時アニマが男性に要請しているのは、男性的なあり方にとっては弱味になるような女性的な面を自分のものとして引き受けることとされています。
アニマの特性としては、神秘性、情動性などがあげられます。- アニムス(animus)
女性の心の中に潜む無意識の男性像や男性的イメージを指します。
女性は外的には女性的なあり方を期待されるため、女性的なペルソナを作り上げていきます。
そのため、アニムスは、女性に対し、女性的なペルソナを補うために男性的な面を受け入れることを要請します。アニムスの特性は、合理性や真実性、勇気などの肯定的な側面がある一方、残酷さ、無謀などの否定的な側面もあるとされています。
女性がアニムスの自覚的な統合を果たした時、主導性、客観性、精神的な叡智などの男性的な特性を併せ持つようになると考えられています。- 太母(great mother)
太母は母性や生命を生み出す母親といったイメージを指します。
母性には生み育てるといった肯定的な側面と、子どもを抱え込みすぎ自立を妨げる(呑み込み死に至らしめる)といった否定的な側面があるとされています。
そのため、太母が破壊的に働くか創造的に働くかは、個人が内なる母(太母)に対してどういう態度をとるかによって異なるとされています。- 老賢者(wise old man)
老賢者は父親や叡智、権威を持つ偉大な存在といったイメージを指します。
老賢者は男性にとっての究極的な成長の目標であり、男性の発達の最終段階と考えられています。
老賢者の肯定的な側面には明敏さ、知恵、洞察力、道徳などがあります。
その一方で、否定的な側面には支配や傲慢さ、冥界への誘いなどがあるとされています。- トリックスター(trickstar)
トリックスターの特徴としては破壞性と反道徳性が挙げられます。
破壊性は、否定的な側面を持つ一方で古い秩序を壊し新しい創造をもたらすという肯定的な側面もあるとされています。
しかし、これらの行為は無意識に行われるため、良い結果も悪い結果も偶然にもたらされるといったこともトリックスターの特徴の一つと考えられています。- 永遠の少年(puer aeternus)
強い母親コンプレックスに囚われ、他のどんなことにも自分を賭けることができず大人になれない、ある種の青年のイメージを指します。
しかし一方で、豊かな創造性をもちあわせているといったこともあるとされています。
- 永遠の少女(puella aeterna)
永遠の少年をそのまま女性におきかえたものを指します。
- 自己(self)
ユングは意識の領域と無意識の領域をともに包括した心全体の中心とし て自己という表現を導入しました。
自己はその人本来の個性に従って成長していくといった性質を持つとされています。
この『自己実現』のプロセスは『個性化過程』と呼ばれています。自己を生み出す根源的エネルギーについて、フロイトが性の欲動と主張したのに対し、ユングは単一の欲動に全ての事柄を還元させていくことは困難であると考えました。
そのため、ユングは一人の人間が生きてきた意味や自己について、その人のあり方やその人の歴史、未来の可能性を含めた全体から理解し探ろうすることが重要であると考えました。
その姿勢は『目的論的視点』と呼ばれ、分析心理学では重視されます。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。