自律訓練法(autogenic training)

自律訓練法

自律訓練法』は1932年にドイツの”シュルツ(Shultz, J. H.)” が”フォクト(Vogt, O.)”の自己催眠の研究を基に体系化した心理療法になります。

心身症』や『神経症』、ストレスを抱える人々などを対象に幅広く用いられている技法になります。
一方で禁忌の対象となっているのは心筋梗塞や糖尿病、低血糖症、急性の精神病を抱える人とされています。

自律訓練法は注意の集中、自己暗示の練習により、全身の緊張をとき、心身の状態を上手く調整できるように工夫された訓練法です。
訓練は段階的に行われ、一つずつ時間をかけて習得を目指していきます。

自律訓練法における原則については以下のようになっております。

  • 外界の刺激を出来るだけ遮断し、一定の受け身的な姿勢をとります(閉眼)
  • 言語公式の言葉を頭の中でゆっくりと反復します。
  • 受動的注意集中』(さりげない集中)で行います。

自律訓練法は通常1日に3回程行い、1回の時間は約2分~10分となっています。
また、練習後はめまいやふらつきを避けるため、『消去動作』と呼ばれる動作を行うことが推奨されています。

自律訓練法の種類には3つあり、それぞれ『標準練習』『特殊練習』『黙想練習』と呼ばれています。

受動的注意集中

受動的注意集中とは、自分の心身の状態に対し、意図的に注意や集中をするというよりも、さりげなくゆったりと注意を向けることを指します。

積極的、能動的、意識的な注意や集中は、『自律神経系』の『交感神経』の働きを強めるため、興奮した状態となり弛緩(リラックス)状態が生じづらくなります。
そのため、自律訓練法では、よりさりげなく受動的に自身の心身に注意が向けられることが大切と考えられています。

消去動作

自律訓練法をはじめとするリラクゼーション技法では、訓練により特定の生理的な変化や意識状態の変化が生じます。

そのため、急に席を立つことや急な運動は、めまいや脱力感、転倒などのリスクとなります。

そこで、リラクセーション技法では、実施後に、消去動作と呼ばれる動作が推奨されています。

自律訓練法では、どの公式で終わったとしても、実施後には以下のような消去動作を行います。

  • 消去動作
    • 両手の開閉運動(手と足の指のグーとパーを繰り返し行い力が入ってきたことを確認)
    • 両腕、両足の屈伸運動(両肘と両ひざの曲げ伸ばし)
    • 大きく背伸び
    • 深呼吸
    • 上の動作が完了してから開眼
標準練習

標準練習は、緊張とリラックスに関する自己コントロール感の獲得や心身の健康の回復、維持、増進を図ることを目的としています。

標準練習での言語公式や手順は以下のようになっております。

  • 背景公式(安静練習)
    • 「気持ちが(とても)落ち着いている。」
  • 第一公式(重感練習)
    • 手足が重たい。
      「右腕が重たい」
      「左腕が重たい」

      「右脚が重たい」
      「左脚が重たい」

      「両腕が重たい」
      「両脚が重たい」

      「両手両脚が重たい」
  • 第二公式(温感練習)
    • 手足が温かい。
      「右腕が温かい」
      「左腕が温かい」

      「右脚が温かい」
      「左脚が温かい」

      「両腕が温かい」
      「両脚が温かい」

      「両手両脚が温かい」
  • 第三公式(心臓調整練習)
    • 「心臓が静かに規則正しく打っている。」
  • 第四公式(呼吸調整練習)
    • 「らくに呼吸している。」
  • 第五公式(腹部温感練習)
    • 「お腹が温かい。」
  • 第六公式(額部涼感練習)
    • 「額が(ここちよく)涼しい」
  • 消去動作
    • 両手の開閉運動(手と足の指のグーとパーを繰り返し行い力が入ってきたことを確認)
    • 両腕、両足の屈伸運動(両肘と両ひざの曲げ伸ばし)
    • 大きく背伸び
    • 深呼吸
    • 上の動作が完了してから開眼

上記の言語公式を順番に心の中で繰り返し唱えます。

初めは第二公式まで行い、必要であれば次に第三公式を習得し、その次に第四公式と一つずつ習得していくことを目指します。
全ての公式の習得には2~3カ月程かける場合もあります。

多くの場合、第二公式までの習得により十分なリラックス効果が得られるとされています。

どの公式で終了しても、実施後は消去動作を行い、めまいや脱力感、転倒のリスクを避けるようにします。

特殊練習

特殊練習は、標準練習を習得した人で必要な場合に行われます。
特殊練習では、それぞれの目的に沿った特定の公式を用いられます。

特殊練習には2つの種類があり、それぞれ『器官調整法』『自己鍛錬法』と呼ばれています。

器官調整法は生理的な問題に焦点をあてたもので、例として夜尿症などに対し、「ぼうこうが温かい」などの言語公式を用いて実施します。
その一方で自己鍛錬法は、心理的な問題に焦点を当て実施されます。

黙想練習

黙想練習は特殊練習と同様に標準練習を習得した人で必要な場合に行われます。

黙想練習では、色彩や事物、人物などの心象視(イメージ)の練習が行われます。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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