補償(compensation)
補償
『補償』とは、心の機能を表す概念であり、"アドラー(Adler, A.)"が創始した『個人心理学』や”ユング(Jung、C. G.)”が創始した『分析心理学』で用いられています。
アドラーは、人には劣等感を克服して、自らの弱点を補おうとする心の働きがあると考えます。
この時の心の機能をアドラーは補償と呼び理解しようとしました。
つまり、人間は誰もが劣等感を持ち、それを補償するために、『無意識』のうちに様々な 試みを行うものであると考えました。
そしてアドラーは、このような人間の持つ不完全な状態から少しでも完全な状態に近づこうとする働きが人間の根源的なエネルギーや欲望であると考え、『権力(カ)への意志』と呼び重視しました。
その一方で、ユングは、人間の心は、『意識』と無意識の相補関係によって全体の均衡、調和を保つもの と考えました。
そのため、意識の態度があまりにも一面的になるとき、それを相補う動きが無意識に存在することを強調しました。
この時の心の機能をユングは補償と呼び理解しようとしました。
つまり、ユングは『心的構造論』における各構造間(『イド(エス)』『自我』『超自我』)の調整を営む無意識的機能として補償を捉えました。
そして、補償は心的機能の自己調整作用として、必然的に起こるものと考えました。
またユングは『神経症』について、無意識があまりにも意識を支配してしまったために補償作用が円滑に機能しなくなった状態と考えるなど、補償の概念を応用し『精神障害』の理解や治療に取り入れました。
参考・引用文献
森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.
\この記事を書いた人/
臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho
精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。