原始的防衛機制(primitive defense mechanism)

原始的防衛機制

原始的防衛機制』は、“クライン(Klein, M.)”により生み出された理論であり、『対象関係論』に組み込まれています。

原始的防衛機制とは、早期の乳幼児や精神病的な不安を抱える人が用いる『防衛機制』を指します

防衛機制の概念は、『精神分析』を創始した”フロイト(Freud, S.)”により提唱されました。
防衛機制とは、『意識』の領域にあると心的苦痛を引き起こす衝動や感情、体験、欲求などに対して、心の安定を保つためにそれらを『無意識』の領域に追いやろうとする『自我』の保護的な働きを指します。
このような、個人の心を守るための自我の様々な防護法を防衛機制と呼びます。

防衛機制が成立する時期について、フロイトは『心理性的発達理論』における男根期(エディプス期)(生後2歳から5歳ごろ)以降であると想定していました。
男根期(エディプス期)に生じる『エディプス・コンプレックス』(同姓の親への敵意や不安)から自我を守る方法として『抑圧』といった防衛機制が用いられるようになり、その後抑圧を基盤として種々の防衛機制が成立されていくと考えました。

それに対して、クラインはフロイトが想定した男根期(エディプス期)より以前に防衛機制が存在すると考えました。
クラインは、フロイトが『神経症』の患者を主な治療の対象としていたのとは異なり、『精神病』(『統合失調症』『双極性障害(躁うつ病)』)の患者や子どもの分析を行っていました。

精神病の患者や子どもの中には精神病的な不安を抱える人がいますが、クラインはその分析を行う中でフロイトが提唱した防衛機制とは異なる未熟な防衛機制が用いられていることを見出します。
また、クラインは、早期の乳幼児の精神内界に着目する中で、乳幼児が根源的な不安から自我を守る方法として未熟な防衛機制を用いることを発見します。
このようなことから、クラインは、フロイトの想定する男根期(エディプス期)より以前に未熟な防衛機制(原始的防衛機制)が存在しており、それを理解することが精神病の患者や子どもの治療に繋がると考えました。

クラインが提唱した原始的防衛機制には、『分裂』、『投影同一化』、『否認』、『原始的理想化』、『躁的防衛』などがあります。

分裂(splitting)

分裂とは、対象や自己を複数に分割しようとする心の働きを指します。
スプリッティング』とも呼ばれます。

クラインは、早期の乳幼児は対象を一つのまとまりをもった全体と認知することができず、対象を良い存在か悪い存在かの二者択一で認知する傾向があると考えます。
このような傾向を『部分対象関係』と呼びます。

そのため、乳幼児は対象が自分の欲求を満たしてくれる時には対象を良い存在と感じ愛着を示しますが、その一方で対象が自分の欲求を満たしてくれない時には対象を悪い存在と感じ攻撃性を示します。
このような分裂が成長後に生じた場合には、個人は対象や自己の連続性や恒常性を保てなくなり強い混乱や不適応的な行動に繋がっていくとされています。

投影同一化(projective identification)

投影同一化とは、自分の不安や否定的側面を、他者(対象)に『投影』することで、他者(対象)を支配し、コントロール(操作)しようとする心の働きを指します。
投影同一視とも呼ばれています。

自分が攻撃性や破壊衝動を抱いているにも関わらず、他者が攻撃性や破壊衝動を抱いていると感じ、他者を責めたり、非難する場合などを指します。
このような投影同一化が行われる場合、対人関係での混乱が生じ問題へと発展する可能性もあるとされています。

否認(denial)

否認とは、心理的苦痛を引き起こす外的現実を何がなんでも認めないといった心の働きを指します。

原始的理想化(primitive idealization)

原始的理想化とは、対象を非現実的に全て良い対象とみなすことで、良い対象を守ろうとする心の働きを指します。
これには、対象を良い対象と悪い対象とに分割する分裂や、悪い対象を認めない否認も同時に働いていると考えられています。

躁的防衛(manic defence)

躁的防衛とは、他者(対象)を傷つけた罪悪感やそれを喪失した絶望感などを自己の中にとどめておくことができず、躁的な感情によって自身を守ろうとする心の働きを指します。

躁的防衛により生じる感情には「支配感」「征服感」「軽蔑」の3つがあるとされています。

森岡正芳編 (2022) 『臨床心理学中事典』野島一彦 (監修), 遠見書房.

日本心理臨床学会編(2011)『心理臨床学事典』 丸善出版.

トラウマケア専門こころのえ相談室(2021)「原始的防衛機制の分裂と投影性同一視|ボーダーの心理」(2024年2月14日取得)

氏原寛編(2004)『心理臨床大事典』改定版, 培風館.

横川滋章・橋爪龍太郎(2015)『生い立ちと業績から学ぶ精神分析入門  22人のフロイトの後継者たち 』 乾 吉佑 (監修), 創元社.

この記事を書いた人

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臨床心理士・公認心理師
上岡 晶
Ueoka Sho

精神科・心療内科での勤務を経て、2023年から「オンラインカウンセリングおはぎ」を開業しました。私のカウンセリングを受けてくださる方が少しでも望まれる生活を送れるように、一緒に歩んでいきたいと考えています。

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